短編

□君の全ては誰のもの
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※グロ、流血注意。雲雀様病み中。




ぱたり、と自分の首筋を流れ黒塗りのソファを伝い、豪奢な絨毯に赤い染みを作る。
だが綱吉はそれには見向きもせずに、こちらを見下ろす目前の麗人を凝視している。

昔からよく怪我をし、最近では様々な厄介事に巻き込まれて血を流すことも珍しくなくなった。
傷を作ることにも慣れてきてはいる。
しかしそれでも皮膚が破れるのは痛い。


「綱吉……、痛い?」


当たり前だと言おうとして、しかし開いた口からは音が出せなかった。
いつもは澄んでいて、闘う時は爛々と輝くはずの漆黒の瞳が暗く濁っていたから。

嫉妬、欲望、独占欲。

それらがどす黒く渦巻いていて、通常の彼からは想像できないほど禍々しくて気持ち悪い。


「ひ、ばりさん」

「血。たくさん出てる」


そう言って雲雀は、綱吉の首筋を抉っていた血の滴る指を赤い口元に寄せてぺろりと舐める。

甘い、と呟く雲雀にいつもの突っ込みスキルはどこへやら。
綱吉はただただ黙って見ていた。
じくじくとした痛みに、応接室に漂う鼻にこびりついて離れない鉄分の匂い。
朦朧としている今、それは気分を悪くした。

どうしてこうなったのか。
今となってはあまり意味はなさないけれど、ぼんやりとする意識の中で記憶の糸を手繰る。

授業中にいつものように突然放送で呼び出された。
早くしないと咬み殺すと脅されて、訳も分からずただ急いで教室を飛び出して応接室に向かい、扉を叩いて返事をもらい開けた途端、いきなり腕を掴まれて引きずり込まれた。
そのままの勢いでソファに投げ出され上にのし掛かれて。
状況が掴めず目を白黒させている間にすらりとした指先を首筋に何度か滑らせて、爪を突き立て抉ったのだ。

あまりの痛みに顔を歪ませるも、声が出なかったのは、大した抵抗も出来なかったのは。
目の前の自分を傷付ける存在が、泣いているようにも見えたからだろう。


「僕の前で考え事? 余裕だね」

「い゛、っくぅ」


綱吉を見詰めにやりと歪んだ笑みを浮かべたかと思えば、同時に首に激痛が走る。
先程の傷口に雲雀が再度指を突き立て、捻ったのだ。
これまでの痛みが更に増幅し、気絶し掛けていた意識が引き戻される。

首もとを離れた指を視線でなぞれば、先刻とは段違いな量の血液がその掌を赤に染め、腕を伝って肘からぽたりと綱吉の制服に滴り落ちる。

あれは自分の一部だ、と。
脳が認識すればするほど恐怖心が身体中を駆け巡る。
それに縛られ硬直していると、雲雀は琥珀の瞳に血塗れの手を伸ばした。


「この目は僕を映すためだけにあって、」


他の奴らの姿など、見なければいい。

ガリッと目元の皮膚が嫌な音を立てて裂け、血が目の中に流れる。


「この声は僕の名を囁くためだけにある」

君の声を僕以外に聞かせないで。

喉を潰そうかとも考えたが、それでは雲雀も一生聞けなくなってしまう。
そう思って唇の端を引っ掻いた。
滲んだ血が綱吉の唇を濡らして口内に入り、鉄の味を含ませる。


「……っ」


その慣れない味に顔を顰め、目前の恐怖から目を背ける。
けれどそんな小さな抵抗など意味をなさなくて、ぐいと強引に合わされた視線が絡み合う。


「ねえ、綱吉。……僕だけを、見て。他の誰も視界に入れないで」


理不尽なくらい、勝手な要求だ。
なのにそれでも許そうとしている心があった。
それは凄まじいほどと言わしめるくらいの、懇願の響きがあるからか。

その目、その涙、その声、その腕、その心。
身体中を巡る血の一滴、髪の毛一筋でさえも僕のもの。
誰にも渡さない。

そんな音のない声が耳を侵すから。
甘い毒のように全身を駆け巡り痺れさせる。
狂おしいほどの彼の感情全てを受け入れてしまえば、この狂気は治まってくれるだろうか。

了承の意を示すように目を閉じれば、見えないはずの雲雀の表情が手に取るようにわかって。
それがひどく、怖かった。


「はやく、堕ちておいで」


にやりと嗤って、赤く染まった唇に己のそれを重ねた。

嗚呼、それはなんて甘美な血の味。




++++

何がしたかった、自分。
どこにでもありそうなグロネタ。
シリアス過ぎて最後遊びました、ごめんなさい。
でも少しだけ輪廻のアルカナの平行世界に繋がってる……かも?
そのうちどんどん狂っていっちゃう雲雀様。
狂愛なヒバツナも好きです。

次のページはシリアスぶち壊しのおまけ。

2012/05/26 初出
2012/08/14 修正

 
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