短編

□それは光り輝く、
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※COMSUBIN時代のコロネロと、小さい頃はイタリアにいた綱吉。捏造も甚だしいコロ+スレツナ。




しくじった、と思った。

地面に這いつくばってライフルのスコープを覗き込んでいたコロネロは、こめかみに当てられた冷たい感触に死を覚悟する。

今回は狙撃手としての任務だったせいか、背後に注意を向けるのを怠った自分のミスだ。
あの鬼教官に知られれば罵倒の嵐だろうが、生還出来ないことは確実だったので関係ない。
こんなことなら戦地に赴く前にきちんとこの気持ちを伝えておけばよかった。
わざわざ、この紛争から戻ってきたら話を聞いて欲しいなんてくだらない口約束などせずに。

相手の指がトリガーに掛かる空気を肌で感じた。
コロネロは次の衝撃に備え、瞑目する。

乾いた音が遠くで聞こえたが、いつまで経ってもその瞬間は訪れない。
そのことに訝しむが、次いで聞こえたその音に一瞬遅れて誰かが倒れる気配がした。
驚いて目を見開けば、自分に銃口を突きつけていたと思われる男が倒れている。
それに困惑し、しかしジャリ、と地面を踏みしめる音にハッと振り向いた。

小さな体格にそぐわない黒く重厚な拳銃を掌で弄び、癖っ毛が強い金にも見える蜂蜜色の髪を風に遊ばた子供が無邪気に笑っている。

血と喧騒に塗れた戦場に不釣り合いな綺麗な子供。

しかし琥珀に潜む老成したような深い輝きは、いくつもの死線を潜り抜けてきた戦士を思わせる。
そして誰よりも人殺しの術を心得ている、コロネロはふとそんなことを感じた。


「こんにちは、綺麗なお兄さん。オレのことはツナって呼んでね」


まだ親の庇護が必要で甘え盛りな子供から発せられたのは、たどたどしい言葉ではなく流暢なイタリア語。
その口調は軽々しいが、大の大人を寸分の狂いなく急所を撃ち抜いて殺したのだ。
いくら助けてもらったとは言え、やはり警戒心が先に立つ。


「オレはコロネロだ。……ツナ、どうしてオレを助けたんだ? コラ」

「んー。その金髪が綺麗だったから、かな。誰が死のうと関係ないから放っておくつもりだったんだけど、つい助けちゃった」


ぺろりと赤い舌を出して、悪びれもせず何でもないことのように言う。

コロネロは生まれて初めて自分の髪に感謝した。
そうでなかったら綱吉の興味を引きつけず、今頃は死んでいただろう。


「爺様が戦場で人殺して来いって五月蝿いからさあ。オレそういうの嫌いなのに」


トリガー部分に指を引っ掛け、慣れたようにくるくると拳銃を回す。
安全装置が外れているのを見て、自分に誤発砲したらどうするんだと思った。


「それは……、とんだ爺様だな」

「全くだよ。こんないたいけな子供を戦場に放り込むなっての」


肩を竦めた綱吉は、すぃと視線を近くの林の方へと向ける。

今まで浮かべていた、玩具を見つけた年相応の子供らしい笑みを引っ込めると、コロネロの正面から向かってやや右寄りに移動した。
拳銃を太ももに取り付けたホルダーに戻し、代わりにどこからか短剣を取り出す。
そして林から飛んできた鉛玉を弾き、その弾道に乗せて短剣を放つ。

どさりと木から落ちてきた人間を確認して、その技にコロネロは舌を巻いた。

かなり距離があったにも関わらず、迷いなく投げられた短剣は眉間に深々と刺さっている。
急所を狙う躊躇いのなさと集中力、そしてその投擲力。
綱吉ひとりで一個師団は余裕で壊滅させられそうだ。


「コロネロは、名のある軍人なの? 結構狙われてるよ。目前に得体の知れない子供がいて気になるのはわかるけど、それに気を取られていたら駄目だ。戦場にいる意識を常に持たないと」


軍人にあるまじき行為を指摘され、コロネロはぐっと息を詰まらせる。

確かにその通りだ。
戦場では一瞬の油断が命取り。
それを体感したばかりだというのに同じ愚を犯すどころか、二度も綱吉に助けられた。
実際死んでもおかしくなかった状況に、コロネロは自分の甘さを自覚する。

その様子を見てひとつ頷き、綱吉は無防備にもコロネロに背を向ける。
不意打ちを受けると思っていないのか、それともそんなものは返り討ちにできると思っているのか。
後者のような気がするのは何故だ。


「コロネロ。大事なものは、迷わず守るべきだよ。オレからの助言」

「……どういう意味だ、コラ」

「きっと“彼女”は楔にはなれない。それを助けるのがコロネロの役目。人間は本当に大事なものを守る時、呪いすら恐れないからね」


なんとも適当そうな口調だな、と思う。
しかしその言葉の重みは今まで感じたことがないもので。
コロネロはただ黙って先を促した。


「でもね、何かを得るには代価を支払わなければならないのを忘れてはいけないよ。誰も気付いていないだけで、世界はそうして回っているから」

「ならお前は、何を犠牲にしたんだ……?」


幼いながらにこれほどの力を持った綱吉は、きっと代価を支払ったのだと直感する。
それはとてつもなく大きいものなのだろう、と。
そして誰よりもそのことを知っているのだ。


「子供でいること、……普通の人間でいること、かな。大切なものを守るには力が必要だったから」


どこか疲れた様子で告げる綱吉に息を飲み、同時に納得した。

コロネロが見た限りでは、綱吉の戦闘能力は大したものだ。
これが大人だったら鍛錬の賜物と言えば聞こえはいいかもしれない。
しかし僅か小学生程度の子供がこんな力を有していれば、世間からは人間離れしていると思われる。
悪ければ化け物、と罵られるかもしれない。

けれど綱吉は、敢えてその力を手にした。
大切なものを守るために。

それが綱吉の払った犠牲だった。


「じゃあね、コロネロ。時が来れば、オレの言った意味がわかるはずだよ」


だからどうか、後悔だけはしないでね。と、声を出したわけではないだろうに、それはコロネロに届いた。

ずっと視界に収めていたにも関わらず、綱吉の姿は一瞬で掻き消える。
どうやら今まで見せたのは潜在能力のほんの一部だったらしい。

綱吉の言葉を胸中で反芻し、脳裏に焼き付ける。
そしてふと見上げた大空に彼の瞳を重ねた。

なんて深い色なんだろう、と。




++++

コロネロがアルコバレーノになる前の捏造話。
コロツナにしようとしたけど、話の内容と年齢的にコロ+ツナに。
きっとコロネロがアルコバレーノになる時、綱吉様の台詞を思い出すんだよ。
ああ、このことかって。
で、後に綱吉様と再会してボンゴレ十代目候補だって知って二重のびっくり。
そういえばアルコバレーノが誕生したのっていつだろう?

2012/06/09 初出
2012/08/14 修正

 

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