短編

□素直ではない者
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普段全く連絡のつかない放浪癖のある同朋が珍しく訪ねて来て、コロネロは彼をマフィアランドの事務室に通した。
なんでも、確認したいことがあるらしい。


「珍しいな、風。お前がわざわざ来るとは」

「ええ。少し意外な情報を耳にしたもので」


と、風は出された紅茶を静かに啜った。
それが素直に美味しいと感じ、帰りに茶葉でも貰おうかと思案する。

しかしそれは用件の二の次であり、風の中で重要な位置を占めているわけではないので、声に出すことはなかった。


「リボーンから聞きました。彼の生徒である沢田綱吉が、女生徒――しかもボンゴレの同盟ファミリーの令嬢を襲った、と。あなたはどう思いますか」

「ぶふぉっ」


まさか風が彼の存在を気にかけているとは思っておらず、風が持ち寄った意外な話題にコロネロは紅茶を噴き出した。
それが正面に座っていた風にかかりそうになり、飲みかけの紅茶共々身を反らしてそれを避ける。


「……大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫だぜ、コラ。それでツナの件だが、オレは全く信じていない。数回会ったことがあるが、そんな人間には見えなかったからな」

「私も同感です。イーピンからの手紙を読む限り、彼は心優しい人柄だと見受けられました。寧ろ彼を疑うリボーンの神経を疑いますよ」

「全くだな。フェミニスト精神が根付いているとはいえ、普通は生徒を信じるものだぜ、コラ」


リボーンの行動が信じられないと、互いの意見に頷き合う赤ん坊達。
恐らく、リボーンの言うようなことは現実に起こっていないはずで、彼の報告を受けているボンゴレが何の動きも見せていないのがかえって不気味だ。

しかしそれは調べればわかることなのでさして気に留めていないが、問題はアルコバレーノ関連に移る。

リボーンはトゥリニセッテの一角を担うアルコバレーノのおしゃぶりを持っている。
果たして、真実も見抜けないような輩にその地位にいる資格があるのかどうか、その問題が頭を擡げてくるのだ。
これに関してはアリアに訊くしかないかとコロネロは結論づけ風に尋ねようとしたが、後ろから伸びてきた腕によって小さな身体が拘束され、それは叶わない。
気配すら感じさせなかったことに戦慄き、けれどそんなことが出来る人物などひとりしか思いつかなかったのでふっと力を抜いた。


「なんの話してるの?」

「ツナ……相変わらず気配を隠すのが上手いなコラ」

「あはは、コロネロは相変わらず可愛いね。抱っこさせて!」


返事も待たずにむぎゅう、と腕に抱いた綱吉は、先程までコロネロが座っていたソファに腰掛ける。
そして半目になってこちらを眺めていた風ににこりと笑いかけた。


「風さんも久し振りだね」

「ええ。……どういうことです?」

「あー。九代目と家光が、コトが鎮まるまで匿ってやれって言ってきてな」

「さっき着いたばっかなんだよ。はぁ、癒される……」


そう言って綱吉のお気に入りである金髪を撫でたり、柔らかい頬をつついて引っ張ったりした。
アレだ、可愛くて可愛くて仕方ない子をやたらめったらに構い倒しているような雰囲気。

鬱陶しいと嫌がりつつも満更ではない様子のコロネロに目を見開き、風はある仮説を立てた。
即ち、コロネロは綱吉に惚れている、と。

しかしそんな他人の色恋沙汰よりも気になることがあるため、そちらを優先させた。


「信じてくれたのは、ふたりだけだったのですか」

「んー。CEDEFはオレ側かな。あとヴァリアーもらしいよ。守護者はヒバリさんと骸達が信じてくれたけど、多勢に無勢ってことで見てみぬふりをしてって頼んだんだ。……本人達は不本意だったみたいで、一発ずつ殴られたけど」


あれは痛かったなあと殴られたらしい頬をさするが、信じてくれたのが余程嬉しかったのか笑っている。

味方だとふたりが宣言してくれた時、騙しているのが後ろ暗くてダメツナの演技のことをバラしたのだ。
しかしそれでも、本質は変わらないからと信用する方向のままでいてくれたのがこの上なく恵まれていると感じた。
裏切ったリボーンによって巡り会わされた関係だったけれど、確かに本物だといえるそれが綱吉にとっては何よりも愛しく思う。


「リボーンも堕ちたなコラ。お前のダメツナの演技を見破れなかったのは仕方ないとして、小手先だけの小娘に騙されるとは」

「しょうがないよ。ただの色ボケ家庭教師だもん。読心術使えるくせに相手が女だからって使ってないの。ただの宝の持ち腐れってやつ? 今回のことが大っぴらになったら信頼が一気に失墜だよね。ざまぁ」


全く役目を果たせていない一応自分の家庭教師に、辛辣な言葉を吐く綱吉。
昔まだ六歳児だった綱吉に説教までかまされたコロネロだったが、ここまで容赦なく罵倒された記憶はない。

ダメツナであろうが素の綱吉であろうが、雲雀達が言ったように“大空のように相手の全てを受け入れる”という本質は変わらないのだ。
そんな綱吉が他人を見放すような、相手の堕ちていく様を嘲笑いながら貶すことを言うとは余程のことである。


「今回のことが終わったらアレを解雇するんだって。コロネロを後任として考えてるみたいだよ、九代目は」

「……オレはお前に教えることなんてないぞコラ」


過去、まだアルコバレーノになる前に二度も命を救われ、みっともない醜態を晒したのだ。
そんな相手を教え子にする酔狂な教師など普通ならいないだろう。


「わかってるよ。リボーンだって本人は知らされていなかったけど、一応オレの護衛みたいなものだったし。今のところ、それは果たされてないけどさ」


守るどころか逆に手酷く裏切り、傷付けてしまっている。
家庭教師としてボンゴレに雇われた身としてはあるまじき行為。
全てが終わった後、ボンゴレから何かしらの罰が下されることは避けられないだろう。


「そういえば、ラルとはどうなの? ちゃんと告白したの?」

「な、ななな何のことだ、それは?」

「え。だってラルを守るためにアルコバレーノになったって聞いてさ。オレの助言通りに動いたんだってわかったんだ。ラルのこと大事なんでしょ?」


確かに以前――というか初対面の時に、まるでこれから何が起こるか全てわかっているかの口振りで、なにか予言めいたことを言われた。
ついでに世界の真理を悟っているようなことも。

綱吉の言う“その時”が訪れてコロネロはその意味を理解したが、しかしそれとこれは別の話なのである。


「ち、違うぞコラ! いや、ラルのことは大事だが、お前が思っていることとは別のもんだっ!」

「ええー、そうなの? じゃあ、誰をそんなに想ってるんだよ。顔真っ赤だけど?」


ケラケラと笑ってからかっているのはわかる、わかるのだが、からかわれる側としては我慢ならないものがあって。
気付いた時には、コロネロは思わず口を滑らせてしまっていた。


「ほ、本人を目の前にして言えるかコラーー!!」

「ええっ? コロネロってば風さんのことが好きだったの?」


明らかに遠回しな告白をかましたというのに、綱吉はどこかズレていた。
確かに、今の位置的な状況を鑑みればコロネロの前に座っているのは風だけれども。

それをひっそりと眺めていた風は、なんて残酷な……と思ったが、よく見れば綱吉の頬がうっすらと赤みを帯びている。
確実に両想いだと悟った風は、ここで綱吉に対する認識を改めた。
ただの優しい少年ではなく、他人をからかうのを面白がり手玉に取ってしまう、強かな少年だと。

それに気付いた綱吉は唇に人差し指を当て、暫くは内緒だよと悪戯っぽく笑う。


「で、風さんは? コロネロのこと好きなの?」

「さて、どうでしょうねえ」


たまには同朋をからかうのも悪くないと、風は綱吉の悪戯に乗ってみた。
しかしふたりの策略に未だ気付かないコロネロは、どちらとも取れる風の返答に焦りを募らせる。

風コラてめー!! などとぎゃあぎゃあ騒ぐコロネロを尻目に、風は二杯目の紅茶を要求するのだった。




++++

スレツナコロに見えなくもないけどコロスレツナだと言い張る!!
当初はコロネロの一通にしようかとも思ったけど、コロネロ可哀想……てことで両想いっぽく。
それでも弄られて可哀想なことになってるけど。
腹黒コンビ相手に頑張れコロネロ!!

2012/06/23 初出
2012/08/14 修正

 

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