短編
□しゅごねこ!
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今日もテストでパーフェクトな不正解をもらい、不良に絡まれ、カツアゲされ。
必死の抵抗も空しく、雀の涙以下の懐が更にぺしゃんこになってしまった。
そんな災難に見舞われた結果、満身創痍で帰宅した綱吉は、自宅の前でしゃがみ込み、困惑した表情でそれを見ていた。
いや、それと見つめ合っていた。
それ――みかんの段ボール。
もっと詳しく言えば、その中に大人しく入っている3匹の、猫と仔猫。
多分捨て猫だ。
綱吉の中の、なけなしの一般常識に当てはめるのならば、間違いなく捨て猫だ。
だがしかし。
(どうしてよりによってオレの家の前なんだ……)
不謹慎にもそう思った。
別に飼えなくなったからといって捨てるのを容認しているわけではない。
寧ろ、捨てるくらいなら最初から飼うな、親猫に産ませるなと思っている。
それはともかく。
どこか余所にやってくれ、というのが綱吉の本音だった。
つまり、厄介事を押し付けるな、と。
疲れたように天を仰いだ。
頼まれたことは断れないのが綱吉の性分である。
それは他人に反論出来ない、抵抗出来ないのだとも取れるが、なんであれ、押し付けられればそのまま流されるのが大半なのだ。
今回もそのパターンだなと溜め息を吐く。
ちなみに、一時的に保護して里親を探す、などといった思考回路を、綱吉は一片たりとも持ち合わせてはいない。
残念なことに。
じ、と睨み付けるようにして段ボールに視線を戻す。
いつここに置かれたのかはわからない。
朝には無かったから、綱吉が学校に行っている最中だと思われる。
今は人通りはないが、きっと何人かはここに猫が捨てられていたことを知っているはずだ。
ということは、ここで見てみぬふりをして猫を段ボールごと余所に移動させたとしても、それは綱吉がやったことだと見抜かれる。
断定はされなくとも、噂程度は流れるに決まっている。
ご近所の情報網、もとい主婦の井戸端会議を舐めてはいけない。
だからそれはやはり、拙いだろう。
今更仕方ないか、と再び重い溜め息を吐き、段ボールの中を見遣る。
改めてよく見れば、綺麗な猫だった。
光の加減によっては銀にも金にも見える毛並みに、アイスブルーの瞳の猫。
艶やかな黒毛に、黒曜石のように輝く瞳を持つ猫。
全身真っ黒、という外見は変わらないが、他の二匹よりも幾分か小さい体躯の仔猫。
猫に使うのもどうかと思うが、美人だ。
捨て猫なのにどこか気品がある。
それに、じぃ、と見上げてくる三対の瞳が、なぜだか怖い。
可愛い可愛い猫のはずなのに、目つきがいやに鋭いところとか。
剣呑な光を帯びているところとか。
拾え! でないと咬み殺す!! と訴えている気がする。
猫なのに、怖い。
しかしこのまま放っておくことも出来ないから、綱吉が取れる行動はひとつしかない。
猫らしくない雰囲気を纏っているくせに、みぃ、と猫らしく鳴かれたのが決定的だった。
綱吉は意を決したように、猫の入った段ボールに手をかけた。