短編
□みつぎねこ!
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「ただいま……戻り、まし、た……?」
今日は珍しく、なにかのトラブルに巻き込まれることもなく学校を終えて帰宅した綱吉は、玄関扉を開けてお決まりの台詞を言おうとした。
学業よりも厳しい奈々の指導の甲斐あってか、礼儀に関してはそこらの中学生よりはしっかりしている。
そんな綱吉の歯切れが悪くなったのは、扉を開けて一番に入ってきた光景に衝撃を受けたからで。
「お帰り、綱吉。早かったね」
「は、い……」
玄関先にちょこんと行儀よく座っている2匹の黒猫。
小さい体躯をした方がヒバリ、ひと回り大きい方が恭弥という名前だ。
その2匹が並んで出迎えてくる光景は、なんとも和やかである。
癒される。
飛びつきたい。
――普段通りであったならば。
取り敢えずは目線を合わせようと、綱吉は2匹の前にしゃがみこむ。
(……っ。あの尻尾、触りたいっ!)
周囲の状況をなるべく視界に入れないようにしている綱吉は、たしたしと揺れる尻尾に釘付けだった。
普段は嫌がって触らせてくれないため、我慢している。
だがその反動は、我慢に比例して大きくなるのだ。
うずうずとする手を必死に押さえつけ、突っ込むべきかそうでないのか非常に悩ませるそれをようやく指摘する。
「えっと……。ヒバリさん、恭弥さん。それは一体何なのでしょう?」
それ、とヒバリと恭弥、各々の隣に横たわる物体を交互に見遣る。
そういえば、この2匹の様子はどこか誇らしげだ。
先程から振っている尻尾は、褒めて褒めてと訴えているのかもしれない。
すると、待ってましたと言わんばかりに2対の黒曜石がきらりと光る。
「今日、なんの日か覚えているかい?」
「…………今日?」
無駄なことを嫌う恭弥が言うからには、多分大事な日なのだ。
しかし、彼ら居候達にとって大事な日とは、一体どういう日なのだろうか。
ヒバリ達の誕生日?
いやいや、それはもっと先のはずだ。
確か子供の日と同じだとか、この間言っていた気がする。
ならばなんだ。
ヒバリ達がここに来た日でもない。
綱吉としては重要な日だが、ヒバリ達にとって大事かどうかは別にしても、あれから1年も経っていないのだから。
そこまで考えても結論の出なかった綱吉は、低く唸って小首を傾げる。
なにかあっただろうか。
それに見かねたヒバリが、少し苛立ったように叫ぶ。
正解など待っていられなかった。
“こういったこと”をしてまで自分達が大事に思っている日を蔑ろにされたみたいで、無性に腹が立ったのだ。
「君の誕生日でしょ。わかったらさっさと受け取りなよっ」
「あ、ありがとうございます……」
そういえばそうだったと、ようやく合点がいった顔をする。
それを一瞥して、ふん、と傲岸不遜な態度でリビングへと戻っていくヒバリを微笑ましげに眺め、恭弥の方に視線を戻す。
――ヒバリの置いていったプレゼントとやらを見ないように。
「あれは照れ隠しだよ。……僕からはこれね」
恭弥はフォローしているのかしていないのか微妙な発言をした。
それはともかく、と隣に放置していたそれをくい、と咥えて綱吉の前に差し出す。
恭弥からのプレゼントはこれのようだ。
「わかってます。ヒバリさんって素直じゃないですよね。恭弥さんも、ありがとうございます」
ヒバリと違い素直に接するあたり、大人の余裕というやつだろうか。
リミッターの外れた時はヒバリよりも狂暴というか手がつけられなくなるが、普段は泰然と構えているのが恭弥だ。
プレゼントそのものはともかく、なにかを貰うというのは嬉しいものだ。
得意げに見上げてくる恭弥の頭をよしよしと撫でまわす。
意外に柔らかいこの毛の感触は、綱吉のお気に入りでもある。
(でも、もっと普通のプレゼントはなかったんですか……?)
思う存分撫でてもらってご満悦なのか、心なしか軽い足取りでヒバリの後を追う後ろ姿を見つめながら、そう思った。
2匹がいなくなって残されたプレゼントを見て、そっと嘆息する。
血塗れの、それ。
事切れているのかぐったりとしている小鳥と野兎。
体格的にヒバリが小鳥を、恭弥が野兎を仕留めたのだろう。
しかし、これをどうしろと言うのだろうか。
2匹とも、心から祝っているのだから責める気は毛頭ないけれど、綱吉は頭を抱えた。