短編

□あと数センチ
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「やあ、デーチモ」


休日に、真っ昼間にも関わらずベッドにうつぶせで寝転がり、漫画を読みふけっていた。

そんな時に頭上から投げかけられた言葉に、綱吉のなけなしの思考が停止する。
指で摘んでいたポテチがぽろりと落ちるた。

「ア、アアアアラウディさん!?」

色彩は違うが雲雀に似た顔で、雲雀と同じように窓から侵入してきたアラウディに悲鳴にも似た声をあげる。
これが雲雀なら即座にトンファーが飛んでくるところだが、なにもない。

さすがイタリア人。
紳士だ。

――ではなかった。
これが普通だ。


それよりも雲雀といいアラウディといい、他人様の部屋の窓を一体なんだと思っているのか。
窓も出入り口と認識しているのなら、即刻改めて欲しい。

だがそれよりもまず、この闖入者の接待が問題だ。
今回が初めてではないとはいえ、こう頻繁に来るのは止めて欲しい。
来るたびに、ジョットは? と訊くものだからすっかり慣れてしまっているが。
……いや、それよりも死人がこうもホイホイ出歩く方が問題か。

「今、ジョットさんを呼びますんで……」

「違うよ。今日は君に会いに来たんだ」

「…………オレ?」

腰を浮かしかけていた綱吉はおや、と首を傾げる。
わざわざ訪ねて来られるほど、このひととなにか接点などあっただろうか。


不可解な表情をする綱吉を余所に、アラウディはにやりと笑う。

「餌づけしに来たんだ」

「え、づけ……?」

って、なんだっけ。
漢字変換が上手く出来なかった。

けれど、ペットに餌をやって懐かせることだったような、と考えて。
んん? と更に首を捻る。

そのうちなにか可笑しくないか、と。


そんなの知ったことかと綱吉の様子を無視して。
アラウディはごそごそとトレンチコートのポケットを探り、小振りな箱を取り出した。

「ジョットから聞いたけど、ジャッポーネにはポッキーゲームとやらがあるみたいだね」

「なんでジョットさんが知ってんの!?」

「晴のアルコバレーノに聞いたんだってさ」

「またあいつか……!」

自分が面白ければどんな厄介事の種でも振り撒く家庭教師。
そのせいで何度悲惨な目に遭わされてきたことか。

というか絶対に確信犯だ。
最終的なツケが全て綱吉に集約されることをわかっててやっている。
なんて傍迷惑な。


しかし、今回の目的はなんなのだろう。
ポッキーゲームなんてジョットに教えて、アラウディへと伝わって。
それで。

「だから君とやろうと思って」

「むぐっ」

ぐ、と一本、チョコレートの方を口に差し込まれる。
そして持ち手の方をアラウディが食む。


(か、顔が近……ッ)

顔を逸らすなり身体を離すなりしたいのに、がっちりと頭と腰を掴んだ手がそれを許さない。
おまけにない頭まで働かない。

かちんこちんに固まったままの綱吉を放って、まぐまぐと食べ進めるアラウディ。


(あれ、これって最終的に口と口が……――)

それを思い出してぼん、と羞恥で頭のてっぺんから湯気を出す。

どうしようどうしようと脳内をぐるぐる回しているうちに、どんどん端麗な顔が近づいてくる。


(もう無理ー!!)


ぎゅ、と目を閉じる。
ついでに口に力が入った。


ぱきん、と。

なにかが折れた。


「あ」

(ん? ぱき……?)

恐る恐る目を開けるとあとふた口くらいの距離で、アラウディが動きを止めていた。

どうやら、先ほど綱吉が力を入れた時に折れてしまったらしい。
口に残っていた欠片を、砕いて飲み込んだ。


「残念」

あまりそうとは感じられない科白を吐いて、チョコレートが付いてるよ、と。
ぺろりと薄い唇を舐めた。

その行動に目を見開いて、ハッと両手で唇を押さえる。


それをからかうように笑って。
じゃあまたね、なんて言って。

来た時と同様、ひらりと窓から帰って行った。


「……二度と来て欲しくない、かも」

赤い顔でぽつりと呟いたそれは、切実な願いだった。




++++

激しく遅刻してますが、ポッキーゲームネタです。
雲雀様でもいいかな、と思いましたが、んなまどろっこしいことしないだろうな、と。
アラツナもっと増やしたい。

2012/11/17 更新

 

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