短編
□君に捧げる物語
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僕は本当に本当に弱い人間で
この世界から消えてしまいたいのに
まだ勇気が出なくて
こうしてずるずると生きている
一方の君はどうだろう?
潔く生きて
そして潔く死んでいった
リストカットすら躊躇ってできない僕とは違う
君は自らの手で包丁を持ち
なんの躊躇いもなくその切っ先を自分の心臓へ突き立てた
何度も何度も
やがて君の身体は熟れたトマトのように
赤くぐちゃぐちゃになった
僕はその姿が本当に綺麗だと感じたよ
赤
全身真っ赤
そこらじゅうに内臓やら透明な液体やらをぶちまけて
ああ…
何度思い出してもすばらしい
素敵な君の死体
もう一度あれが見たい
でももう君はいない
かといって他の人たちを殺す勇気もない
だったら…
自分を殺せばいいじゃないか
グサッ
「ああああああ痛いいいいいいいい!!!!!!」
火を吹くように熱く、痛くなる傷口を感じて僕は初めて知った
死の恐怖を
傷つく痛みを
生きることの素晴らしさを
彼が見せたのは“勇気”じゃなくて
“狂気”なんだと
気づいた頃にはもう遅くて
僕はいつの間にか死んでいた
だから僕は君に捧げるよ
恨みのこもった僕の想いを
〜END〜