suen~o1

□チューリップ
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リナに恋心を抱いたのはいつだったのか、それは定かではない。子供の頃から一緒にいて、友情がそのまま愛情に変わっていったために正確な時期というのは分からない。
でも僕は確かにリナのことが好きだ。

想いを寄せる人に避けられるのは誰だって悲しいものだ。
最近、リナが僕を避けている。話しかけてもあからさまに話を逸らしてどこかに行ってしまうし、目も合わせてくれない。いつだって僕と話すときは下を向いている。
避けられる理由が分からない。
(僕は何かをしてしまったのだろうか?)
自分に問いかけてみても答えは出てこない。お手上げだ、と僕は兄弟に相談することにした。

「ねぇ。最近リナが僕のこと避けるんだけど、何か知らない?」
その言葉に2人はきょとんとした。そのあとにコーンが口を開く。
「何も知りませんよ?デントが何かしたんじゃないですか?」
「心当たりがないから聞いてるんじゃないか。」
「俺も知らないなぁ…」
ポッドの目が少し左上を向いた。人間は嘘をつくときに左上を見るらしい。と、いうことはポッドは嘘をついていることになる。でもここで問い詰めてもきっと答えてはくれないだろう。嘘をつくことが嫌いなポッドが何かを隠すというのはきっと大きな理由があるからだ。
僕は兄弟から聞くことをあきらめた。

こうなったら本人に直接聞くしかない。僕はリナにメールを送った。
“今日、午後4時にジム前に来てほしい”
来てくれるかは分からない。また避けられてしまうかもしれない。それは一つの賭けだった。

一方的な約束の時間まで、あと2時間。
なんとなく、気分でフラワーショップへ向かった。誰かに贈るつもりも、ましてやリナに贈ろうともそのときは思っていなかった。
フラワーショップはいつもきれいな花が並んでいる。コーンがレストランに飾る花をここでいつも買っているので何回かついてきたことがあった。そこで目に留まったもの。
「今日は何をお探しですか?」
柔らかい雰囲気をまとった女性店員に話しかけられた。
「いえ、今日は特に目的があったわけではなくて…」
そう、言葉を濁した。僕は目に留まった花から少しの間、目を離せなくなっていた。
「チューリップ…何か思い出でも?」
「あ、些細なことなんです。子供の頃に女の子に赤いチューリップを贈ったことを思い出して」
子供の頃、僕はリナにチューリップの鉢植えを贈った。本当は切り花で贈るはずだったのだがリナが「切るのは可哀想…」と言ったので鉢植えを贈ったのだ。そんな昔を思い出して自然と笑みがこぼれた。
「赤いチューリップの花言葉は恋の宣言、愛の告白なんですよ。」
女性店員はそう笑った。知らなかったとはいえ、結構気障なことをやっていたらしい。少し笑った後に僕は決意した。
「赤いチューリップを一本ください。」
店員は柔らかく笑ってはい、と答えた。

あんな一方的な約束なのにリナはジムの前に居てくれた。
僕はリナの前に立つ。もちろん左手に持ったチューリップは隠して。
「リナ」
「で、デントくん…突然どうしたの?」
やっぱり目を合わせてくれない。まずはこの理由を聞かなければならないだろう。
これで「貴方のことが嫌いだから」と言われてしまえば左手の花は可哀想な末路を辿ることになるかもしれない。
「リナはなんで僕を避けるの?」
「それは…」
「ねぇ、答えて。」
…しまった。少しきつい言い方になってしまったかもしれない。リナは下を向いてしまった。
そのとき、リナが後ろで組んでいた手を出した。
「これっ!」
赤いチューリップだった。リナを見ると頬がほんのり赤い。
「先、越されちゃったなぁ…」
考えていたことは一緒だったのだ。僕も左手を出す。

「花言葉は愛の告白、
 僕はリナが好きです。」

勢いよく顔を上げたリナは少しびっくりした顔をしてから、笑顔になった。


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