suen~o1

□ただ、彼女の涙を拭いたかった
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いつものようにパソコンの中で眠る僕は彼女の声で目を覚ます。
「キヨテル、おはよう」
いつもの朝の挨拶。彼女がにこりと笑ったのが画面越しでも分かった。

僕は所詮機械でしかなくて、ここから出ることも自分の意思で話すこともできない。
まず、意思を持ってしまった時点でおかしいのだ。僕はイレギュラーな存在だ。
それを分かっているけれどそれでどうにかできる問題でもない。
僕は所詮機械なのだから。

彼女の歌わせてくれる歌は優しいメロディーで、彼女の人柄を表しているようだった。
彼女の歌が好きで、そんな優しい曲を作る彼女のことが好きだ。
たとえ触れることができなくても、話すことができなくてもいいと思っていた。



今日の彼女は元気がない。作ってくれた曲もなんだか悲しげで、歌いながら胸の痛みを感じた。
それは恋の歌だった。悲恋の歌だった。
僕が歌っていると彼女は突然涙を流し始める。それは止まることを知らず、一粒二粒と彼女の頬を伝いながら床へ落ちていった。
僕はふと気づく、彼女の指にあったリングがないことに。それで僕はすべてを理解してしまった。


ああ、彼女は失恋してしまったのだと。


そしてこれはその悲しみを歌った歌なのだ。だからこんなにも胸が苦しい。
涙を流す彼女に触れたくなった。パソコン越しに手を伸ばそうとする。
自分の意思で動けるはずなんてないのに、そのときはそんな疑問も持たずに画面の外へ向かって手を伸ばす。
一瞬ガラスのような衝撃を感じたがそんなこと気にせずに、ただ彼女のことだけを考えた。
瞬間大きな光に包まれた。





「キヨテル…?」



気付けば彼女の驚いた顔と彼女の部屋。いつも画面越しに見えていたそれらが実体を持って存在していた。


いや、僕が実体を持ったのだ。


自然と口から出てきたのは先ほど彼女が歌わせてくれた歌だった。
彼女の乾いていない頬の涙をなぞりながら僕は微笑んだ。


人間の彼女と機械の僕、少しおかしな恋物語が始まろうとしていた――






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続かない…と思われる←

 

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