ウェルディアナの花の下

□輿入れ
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「タナン王国の王がカリスティア姫様を、だと!」
「はい。姫様をタナン王、カインド・タナン・レオパード様の側室へと、との王自らのお申し出でございました。」

このタバン皇国皇后死去から数年後、議会を騒がしたのはタナンからの不躾な要求からであった。

「なんと無礼な!我ら由緒あるタバン皇国の唯一の姫であるカリスティア姫様をタナンの、それも側室だと!舐めきられているではないか!」
「カリスティア姫様は聡明で、そんな野蛮な国になど!!」

議会が困惑するのも無理はない。タナン王、カインドにはすでに、アレクセイ皇国の第一皇女を正妃に迎え入れている。

「カリスティアはなんと?」
「…………姫様はこのタバンを守るためなら、タナンに赴くと。」

騒がしい議会を静めたのは、このタバンの皇帝であるヒンヴェルだった。

「ウェルディ、カリスティアをこの場に。」
「御意にございます。」

一度、皇帝の前から辞すると、ウェルディはすぐ近くで正装で待ち受けていたカリスティアを呼びにいく。

「カリスティア姫様、皇帝陛下がお呼びです。」
「ウェルディ………。」
「はい、私はいつまでも姫のお側に。」

いつになく顔をこわばらせ名前を呼ぶ姉に、ウェルディはできるだけいつもどおりの笑みを浮かべた。

「皇帝陛下、カリスティア姫様をお連れいたしました。」
「カリスティア、そなたの覚悟を聞かせてもらおう。」

父の重苦しい声に、カリスティアは礼を欠かさぬように心がけながら、そっと、その喉を震わせた。

「タナンは、それもタナン王は戦に長けた人物だと聞き及んでおります。
この美しいタバンを、私の愛したこの民たちを戦火に巻き込むくらいなら、私は喜んでタナンに嫁ぎましょう。
陛下、私をお使いくださいませ。

タナンとタバンとの架橋として、この国を守るために私をタナンに行かせてくださいませ。」

凛と、それも揺るがぬ声音でまっすぐと父王を見据えたカリスティアに議会に連なる者たちは息を呑んだ。

「私が嫁ぐと言っても、タナンはタバンの敵。供はいりません。
なにがあるか分からない場所に、タバンの民を連れていく訳にはいけませんから。」
「姫様!!私はタバンの侍従長であると同時に、カリスティア姫様の侍従にございます!
私も共に参りましょう!姫様のお側でお仕えさせてくださいませ。」

けっして彼女をひとりにしないと誓った。
ずっと側にいると、
だから、タナンに嫁ぐ姫をこのタバンで見送るくらいなら、命を捨てたほうがマシだ。

「………第一皇女カリスティア・タバン・コーネリア、タナンへの輿入れを申し付ける。
タバン皇宮侍従長、ウェルディ・シュナ・ガウディア並びにタバン皇宮護衛隊長、レオナルド・スワン・セレルディナ、皇女と共にタナンに向かうことを命ずる。」
「「「謹んでお受けいたします。」」」
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