空が奏でる奇跡

□第一章
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大きい。
僕の雛里学園の第一印象はそれだった。
門に入って、疾風が迎えにきてくれるのを待つ。

「きれい。」

不意に後ろから声がした。
振り返ると、そこにはすごく綺麗な人がいた。

「君はすごくきれいだね。心がきれいだ。
あ、ごめんね。急に変なこと言い出して。
………驚かせちゃったかな?」
『あの、大丈夫です。』

ちょっとびっくりしてなんて行ったら言いか分からなかっただけ。
少しだけ、彼の綺麗な声に聞き惚れていたのかもしれない。

「君………もしかして……。」
「刹那先輩、ひなたっ!!!
つーか、刹那先輩、今日は風紀室で大人しくしといて下さいって言いましたよね!?!?」

この人の名前、刹那って言うんだ。凄くいい名前だなぁ。

「疾風、そんなに怒鳴らなくても聞こえてる。
僕は三年の雪村刹那。風紀の副委員長をしてるんだ。」
『はじめまして、僕は橘ひなたです。』

颯太さんは入学する時に、僕も゙橘゙を名乗っていいって言ってくれた。
゙僕なんかが゙って言ったら、颯太さんに軽く頭を叩かれた。

「あのね、ひなたはもう僕の家族で息子なんだ。゙なんがなんて言うな。
それに書類も゙橘ひなだで通したからね。」


その言葉が凄く嬉しかった。

「君にぴったりの優しい名前だね。
僕のことも刹那でいいから。」
『刹那先輩、ありがとうございます。』

名前を褒められたのは初めてかもしれない。
“空色ひなた”は僕が残された唯一の家族からの贈り物だった。
汚れた僕には勿体なさすぎる名前だ。

「刹那先輩、疾風‼縁(ゆかり)先輩がマジで怒ってんだけど‼
つか、こいつが疾風の義兄貴?の割に平凡だな。」
「うっせーよ、バカ犬‼
誰がなんと言おうとひなたは俺の兄貴なんだよ。」

二人の掛け合いが面白くて、
疾風の言葉が嬉しくて、思わず笑みが零れる。

「ひなた、ひなたは笑っていて?笑ってた方が可愛いよ。」
『可愛いなんて、家族以外に初めて言われました。』

周りは僕を“呪術師”と呼ぶ。数少ない生き残りで、忌まわしい力を持つもの。
刹那先輩も僕が空色だと知ったら離れて行ってしまうのだろうか。


「泣きそうな顔してる。僕が何か気に障るようなこと言っちゃたかな?
だったらゴメンね?」
『ゴメンナサイ。刹那先輩は悪くないんです!僕がっ……。』

僕はこんなにも弱く、醜い。

「無理して笑うな。泣きたい時は泣いていい。お前は我慢しすぎだ。
お前は一人じゃない俺も疾風も、刹那先輩もいる。」
「ありゃ、刃。こんな可愛いらしい子泣かせたらいけませんえ?」

彼の言葉に思わず涙が零れた。あの時のことは今も、疾風ぐらいにしか伝えていない。
でも、この人たちにはいつか笑って手を伸ばせる気がした。

「う、あの縁先輩、あの、これには訳が、あって。」
「訳は後でゆっくり聞きましょ。とりあえず風紀室に戻った方がええですね。
ここじゃ、うるさい生徒会に見つかりかねませんし。」

疾風たちと、生徒会って仲悪いのかな?

「ひなた、行きましょう。」

伸ばされた刹那先輩の手を躊躇いがちに取った。
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