ウェルディアナの花の下
□追憶
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それから十年後。
ウェルディ十歳。
タバン皇国第一皇女カリスティア姫十三歳。
「姫様、カリスティア姫様!
………ティア様、早くお戻りください、王妃様がおよびですよ。」
「嫌よ、ディアがいなくなってからのお母様、……お母様じゃないみたい。」
カリスティアは大人の視界から隠れるようにして膝を抱えていた。
ウェルディとカリスティアは幼少期から父とともに皇宮に出入りしていたウェルディがカリスティア姫付きの侍従となった時からの付き合いである。
二年前から姫の侍従となったウェルディとカリスティアは年が近いこともあり、姉弟のように成長していったのである。
「ティア姫様、王妃様はウェルディアナ様がご崩御なされてとても哀しんでおられるのですよ。」
「でも!!ウェルディアナはここにいるわ!」
声を荒げるカリスティアをそっと宥めて、ウェルディは哀しそうに笑う。
「ティア姫様、お声が大きすぎますよ。
ウェルディアナ第四皇子様は身罷られました。あなたの側に恐れ多くも寄り添っている私は、ただのあなたの侍従です。」
僕は、母様にとっての化物ですから。
音にならなかった言葉は風にゆっくりとさらわれてしまう。
「ごめんなさい、ウェルを傷つけたいわけじゃないの。」
「姫様が気になさることではありませんよ。私は姫様の忠実なる下僕ですから。」
二人だけの世界でそれで幸せだった。たとえ公ではタバン皇国の第一皇女とその侍従でも。
自分たちだけが、姉弟であること知っていれば。
けれど周りはそうはいかなかった。
何度も、毒の皿を喰らい、病に伏し、
姉の前では何事もなかったかのように振舞う。
実母によって、その命を良しとされても、
ウェルディはけっして誰にも弱音を吐かなかった。
それはできなかった。
その真実を認めれば、本当に自分が立っていられないと知っていたから。
「ティア様が私を側においてくだされば、それだけが僕の幸せですよ、姫姉様。」
「ウェル!!大好きよ!たとえなにがあっても側にいて。」
「もちろん、お側に。」