ウェルディアナの花の下
□輿入れ
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こうしてタバン国民に大々的にカリスティアの輿入れが知らせられた。お祝いムードに包まれつつも、皆、どこか不安を覚えていた。
カリスティアを盾に、タナンはこのタバンに攻め込んでくるのではないかと。
「約束するわ。私は、カザンフィオーナも、レザンフィオーナも、誰ひとり、このタバンを戦火に巻き込まなせないと。
タバン第一皇女カリスティア・タバン・コーネリアの最後の命である!
タバン全国民がみな幸せであると、私カリスティアまで届けよ!」
その不安を一掃したのも、また彼女の人望のなせる技ではあったけれども。
「カリスティア、ウェルディアナ、二人に神のご加護があらんことを。
力ない父を許してくれ。」
「父様、大丈夫。安心して。私は精一杯頑張ってくるから。」
旅立ちを控えたカリスティアの自室に、ヒンヴェルと、ウェルディの姿があった。
最後の親子としての別れ。
「へいか、私はっ!!」
「ウェルディアナ、すまなかったね。君には辛い想いも哀しい想いもたくさんさせてしまった。
だから、どうか幸せになってほしい。」
泣き出してしまったウェルディを支えるようにして、父ヒンヴェルは息子を抱きしめる。
最初で最後だと分かっている。
だからこそ、優しく、そして強く。
ただ傷ばかり背負わせてしまった息子の幸せを願って。
「とうさま、」
「ディー。」
そっとゆるやかに解かれたその腕に、ウェルディアナは笑みを零す。
「行ってまいります。」
「立派になったね、ウェルディアナ。カリスティアのことを頼むよ。」
「はい。」
輿入れの儀は盛大に行われた。
ふんだんに使われたタナン織りのドレス。
タバン鉱石を飾り付けられたそれは光を浴びてキラキラと光を放っていた。
迎えにきたタナン王に劣らないほど、盛大な輿と、白の軍服に身をまとった兵士たち。
その先頭に立つのは白の神官服を身にまとったウェルディと、黒の軍服を身にまとうレオナルドの姿があった。
旅立つ娘と息子の姿を、城のバルコニーから見つめる父、ヒンヴェルの目にはうっすらと涙が。
「サラ、私たちの末の娘と息子はこんなにも大きくなったのだな。
お前にも美しいカリスティアと、立派なウェルディアナの姿を見せたかったよ。」
タバンの唯一神ディアナが愛したウェルディアナの花が満開の季節の話であった。