ウェルディアナの花の下

□恐怖の記憶
2ページ/3ページ

→sideカリスティア

「スヴェル将軍、これ以上あの子を苦しめるなら、近づかないでいただける?」
「俺は………。」

笑顔を失ってしまったあの子を、ずっと見守ってきたから。またあの時のようにウェルディを記憶があの子を縛るなら。
私はその原因を排除してみせるわ。

「あの子がこの国にきて、あなたと楽しそうに話しをしていることは知っています。
あなたが、ウェルを笑顔にしてくれるならそれでいいけれど、
あの子を泣かせるなら、私は容赦致しません。」
「カリスティア姫……。」

私のたった一人の弟。
ずっと側にいてくれた優しい子ども。

「あなたが、陛下に言われてウェルディを見張っているのは分かります。
あの子は私にとって弟も同然。なにを勘ぐっておられるかは知りませんが、タバンからついてきてくれたウェルディを侮辱しないで。」

ディーの誕生を楽しみにしていた。
私の唯一の弟。

『ティア、もう少ししたらティアもお姉ちゃんになるのよ?この子をお願いね、ティア。』
『はは、ティアの目が輝いているね。はやく生まれておいで、俺たちのディー。』

兄様も、みんな、みんなが望んでいた末弟。
けれど、あの子は皇子として育つことはできなかった。
誕生を待ち望んでいたはずの母も兄たちも、あの子を……。

「お願いです、スヴェル将軍。あの子を助けて。」

あの忌まわしい記憶から、
次兄、イルオディナ・タバン・コオリアの束縛から。

「ウェルディ殿を?」
「ウェルは今もあの人の束縛から逃れられない。だからどうか、その柵を。」

解き放って。きっと、目の前にいるこの方なら、この方だからできるはず。

「あの子を愛してあげてください。」

愛に飢えた子どもだった。
本当の愛に疎い子どもだった。
ウェルディは本当の愛情をしらない。
家族愛でも、敬愛でも、狂愛でもない。

「私ではあの子の姉にしかなれないのです。
無茶なお願いとは存じ上げております。
ただ、どうか、あの子を救って。」

あぁ、私は矛盾している。ウェルを泣かせたくない。きっとこの方はウェルを泣かせてしまう。
けれど、あの子を本当の意味で幸せにしてあげることができるのはこの方しかいない。
女の勘だ。

この方はきっと、ウェルを、
私の最愛の弟を大切に、愛してくださる。

→sideカリスティアend
→sideスヴェル

カリスティア姫は真実を話してはくれなかった。
ただ、ウェルディを本当に大切にしていることだけは伝わってきた。

「俺は、こんな俺がウェルディ殿を愛しても、いいのでしょうか。」
「お噂は存じ上げております。
でも、あなたはお優しい方。そうでしょう?
あの子の強ばった表情を始めに溶かしたのはあなたですもの。
味方などいない、このタナンで、
あなたはあの子の想いを見つけてくださった。」

あの子の居場所になってあげてください。
そう告げるカリスティア姫の瞳はまっすぐだ。
俺は手の平を見つめる。
この血まみれの手で、俺はウェルディを抱きしめてもいいのだろうか。
俺はウェルディのことをなにもしらないというのに?

「スヴェル将軍、あの子の側にいてあげて。」

真面目で、まっすぐで、でも頑固で泣き虫だから。
そうやって笑うカリスティア姫は姉の顔をされていた。

「では私はこれで。」

言いたいことを全部言ってすっきりした。
とあっけらかんに笑うから、俺も思わず笑みを零す。

「お部屋までお送りします、カリスティア姫。」
「いいわ。すぐそこですもの。ウェルディの側にいてあげて。」

目礼をしてから、ウェルディの部屋に戻る。

「顔色が悪い。」

いささかうなされているようだ。

「大丈夫、大丈夫だ。ウェルディ殿。
あなたはけっして一人ではない。」

そっと前髪を払ってやる。
まだ幼さの残る顔は汗がにじんでいる。

「目覚めるまでお側にいさせてくれ。」

あなたが愛おしい。
傷も、痛みも全てともに背負うから。
俺はあなたの導になりたい。

→sideスヴェルend
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ