ウェルディアナの花の下

□守りたいもの
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「お初お目にかかります。私の名前はフローディア・暁月・アークユリアと申します。
王のご命令で、少しばかり窮屈ですがお世話するように、と。」
「………アークユリアというと、スヴェル様たちの?」

連れてこられたのは北の高い塔の最上階だった。
そこは大きな部屋になっていて、過ごしやすいように整えられていた。

「叔母にあたります。少しばかり私の昔話に付き合っていただけますか?ウェルディ殿。」
「はい。」

僕たちはお互いのことをしらない。
この胸の痛みはなに?

「私の妹、イキシア・暁月・アークユリアは私とともに奴隷としてこの国、タナンにやって参りました。その当時、この国は腐敗しきっていた。
裕福なものを貧しいものの全てを強奪する、それがまかり通るような国でありました。」

そう、議会が姫様の嫁入りを渋ったのはこれが理由だった。今は現王である、カインド様とスヴェ様の革命によって整備されたが、本当にそれ以前は目も当てられないほどだったと聞いたことがあった。

「イキシアは、奴隷市で前王に見初められ、三人の子を無理やり孕まされました。
この国では奴隷では王妃にはなれないし、この国の王位継承権なんて与えられない。
ミシェル様も、カイ様も、スヴェ様も、いてもいなくてもいい存在として、この塔で放っておかれました。
ミシェル様も、カイ様も、スヴェ様もとても聡明で、この国に期待などしていなかった。
ご兄弟とイキシアと、私だけの小さな世界で完結してしまう小さな、小さな世界でありました。」

それでもミシェル様は笑っていた。みんな、みんな幸せそうだった。
彼らは前に進んでいるのだ。
きっと。僕にはできない。

「そんなとき、アレクセイ皇国からまだ幼い第七王女が前王に嫁ぐこととなったのです。
前王は王妃様だけでなく、多くの側室をお持ちでした。イキシアは、どうしてもレイオット様を助けたかったのでしょう。
王に刃を向けました。」

王に刃を向ける、それは反逆罪だ。たとえ王の側室でもそれは許されない大罪だった。

「イキシアは、この塔で命を落としました。
それから、ミシェル様も、カイ様もこの国を改革するために翻弄しました。そして、スヴェ様はお二人をお守りするためにその手を血に染めました。」

僕たちと一緒。悲しくて、寂しい宿命(さだめ)。

「あとは、ウェルディ殿も知っておられる通り。カイ様はこの国の王となられ、ミシェル様と、スヴェ様と、そしてレイオット様とともにこの国をあるべき姿に戻されたのです。」

それは生半可な覚悟ではできなかったことだ。
それでも彼は守ることを選んだ。
僕と同じように。

「フローディア。」
「カイ様。」

やってきたタナン王に、フローディア様が頭を下げる。
それに倣い、僕も膝をおる。

「全てを話せ。」
「気持ちのいい話しではありませんが。」
「俺たちの話しも気持ちのよいものではなかっただろう?」

僕の目の前にいるタナン王は聡明な方だ。
そしてなによりも、姫姉様を大切にしてくださる。

「わかりました。私の話しは嘘偽りないこと、タバンの神、ディアナ様と、タナンの神、ヘレニア様に誓います。

私は、タバンの第四皇子、ウェルディアナ・タバン・コオリアと申します。」
「ティアの王弟!?だが生まれてすぐ亡くなったのでは?」

そう、僕は表向き生まれてすぐ死んだことになっている。

「少し刀をお借りしても?」
「わかった。」

預かった短刀で服を破く。
僕が隠したかった真実。

「僕は、両方の性を持って生まれてきたのです。
母はそんな僕に絶望して、心を病んでしまわれた。
そんな僕を哀れんでくださった父のおかげで、僕は親友であり、当時の神官長であるセルシオ様に預けられ育ちました。」

そして城に姫の侍従としてカリスティア様に仕えることになった。

「そのとき、僕ははじめて、自分が生まれてきてはいけないことに気付いてしまった。
母になんども毒を盛られ、オルカディナ兄上に折檻を受けて、僕はウェルディアナだと知ったのです。」

そして極めつけは。
今もなお僕を縛る次兄、イルオディナ兄上。

「そして幼いころ、次兄であるイルオディナ兄上に、タバンの古都………フィオトルで幽閉されていました。
兄はディアナ様を妄信していて、僕が、ディアナ様の生まれ変わりだと信じて疑わなかった。
僕は違うんです、僕はただのなりそこないだ。
母の望んだように生まれてこなかった、
母の期待を、みんなの期待を裏切ってしまった。
僕はっ!!」
「ティアはそうは思っていない。いつだって、お前のことが、自慢なのだと言っていた。」

そう、姫姉様はいつだって優しい。
ずっと側にいてくれた。

「姉様も、僕のじまん、で、すっ……!」
「ウェルディ様。」

そっと優しいたおやかな手で涙を拭われる。

「レイオット、様?」
「わかったか?」

顔をあげるとそこには黒の動きやすい服をきたレイオット様が笑っておられた。

「はい。ティア様は、レゴルの森の近くです。
それから、これを。スヴェ様のものなので少し大きいかもしれませんが。」
「よし、フローディア!スヴェを呼べ!軍の指揮系統を俺に移すようにも伝えておけ。

レイは、付いてこい!

ウェルディ、すぐにスヴェがくるまでここでおとなしくしておいてほしい。表向きにはこの塔は使われていないから、スヴェがくるまでには間に合うだろう。」

託されたのはスヴェ様がよく着ておられる上着だった。
そうだった。自分の話しを信じてもらうために服を裂いたんだ。

「ティアは必ず連れ戻す。だから、待っていろ。」
「はい、カインド様、レイオット様、ご無事で。」

僕にはそれぐらいしか願えないけれど。
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