空が奏でる奇跡
□序章
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「ひなた。」
『疾風どうしたの?』
疾風は本当にしっかりしていて、頼りになる弟だった。
僕とは違って頭もいいし、心も広い。
「呼んでみたかっただけ。」
大嫌いだった名前も、疾風や雅都さん、颯太さんが呼んでくれるから、今は好きだ。
『疾風。』
「なんだ?」
優しく笑う疾風が大好きだった。
迷うことなく家族として受け入れてくれたばかりじゃなくて、
こうして全てを知りながら僕の名前を呼んでくれる。
僕が疾風の名前を呼ぶと、振り返ってくれる。
『ありがとう、疾風。』
「ひなた…………。
ひなたがうちに来てくれて、俺の兄貴になってくれた。
ありがとな、ひなた。」
ぎゅうっと抱きしめてくれる疾風の優しさに何度も救われた。
僕は、この家族が大好きだ。
「あ、今日さぁ親父帰ってくるらしいぜ。」
『早く帰ろっか。今日は疾風と颯太さんの大好きな肉じゃがにしよう。』
疾風の手をとって家に向かう。歩いているときの会話は携帯になった。
だから二人で歩きながら話せる。
『あと、今日は奮発してお刺身だよ。』
「それ、ひなたが食べたいだけだろー。」
あ、バレた。二人で顔を合わせて笑う。
こんな時間が大好きだった。
→SIDE疾風
『疾風、買い物付き合ってね。』
「はいはい、お姫様。俺でよければお付き合いしますよ。」
ひなたは自分を大切にしない。
仕方ないんだ。
だから俺はひなたの名前を呼ぶ。ここにいていいんだ。
ひなたはもう空色の名前に縛られなくていい。
ぶうっと膨れたひなたの頭を撫でた。少しずつ見せるひなたの感情に安堵する。
初めて会った時のあの無表情さ、そして目覚めてすぐ泣いていた表情に、俺はあいつの側にいたいと思うし、ひなたには笑っていて欲しい。
『疾風ってば。見てる?』
「あ、ごめん。ひなた、行こう。」
今は触れても怖がられなくなった。もっと、もっとひなたの世界が広がればいいのに。
『疾風?』
「なんでもねぇよ。あ、ひなた。
帰ったら雅都さんと三人でご飯作ろうぜ。
で、親父喜ばせような。」
ふにゃりと笑うひなたが愛おしい。
俺にとってのたった一人の兄貴なんだから。
→SIDE疾風END