小ネタ・単独SS其の2

□本当の敗者
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シュウ@フェンリルはマリクの嫁



世界を照らすはずの太陽と月はもうない
何時かの予言通り食い殺されてしまったのだから
宝石のように浮かんでいた星々も、全てが天から落ち
漆黒の空・まばらに浮かぶ雲だけが残骸として、ただそこに在る
失われた光に代わり、それらを映し出すのは
深き深遠より滲み出し不気味に光るマグマと、熱で燃え盛る草に木々
これから訪れる避けようの無い運命へ、怯える様に大地が揺れる
いや、揺らしているのだ
復讐に身を・心を焦がす我が子が

かろうじて、地上に残った光はそれだけでは無かった
火を見つめ、輝くのは色取り取りの目
眼光の全てが合図のような音と共に中心へと向けられる

踏みしめる足音
解きほぐされた癖の強い赤毛が、風に靡く

「テメェ等、この俺の配下として迷わずついて来い!!」
「当然だ  …だが、何時もと口調が違ってねぇか?ロキ」

何時もはもっと軽く、ふざけた調子であるというのに
一人称も『俺』の後に続くはずの『様』が無い
スルトだけでなく、その場に居るロキを知るもの全てが同じことを思った事だろう

「当たり前だろ…

もう終わりなんだよ 道化を演じるのはなぁ!!」

言葉は、空へと向けられる
そう、自分が偽りの仮面を被る必要は、もう何処にも無い
一人称の違いはその表れ

『閉ざす者』『終わらせるもの』
それが『ロキ』の名の意味であり宿命


「決する時だ」

一斉の雄叫びに空も揺れる
神でも止めようの無い滅びが始まっていた

「『ラグナロク(神々の運命)』 を」


無言で見上げた天空
静寂過ぎて逆に耳の奥が痛む
一瞬何事かと思ったが、何と言う事も無い

「………………」


(夢だからって盛り過ぎだろ…)

ラグナロクでは、あそこまで自分は言っていない・していない…はずだ
…多分
実際は、それこそ狂った状態であり、ヘイムダルの戦いまでまともな出来事を覚えておらず
夢の通りの事を言ってたのかもしれないが

大きなあくびを一つ
体を起こし、まともに働くようになった視力で空を見上げる
美しい星々が並ぶが、強烈な光によって
少しずつ、その姿が隠れてゆく

「…ロキ?」

近くで眠っていたトールも、気配を感じてか目を覚ます
ぼんやりと近づく日の出に気を取られつつも、ロキはトールへ手を上げて答えた

「…起きるのには丁度いい時間帯だ っと」

完全に覚醒したトールは寝袋のファスナーを下し
座布団の代わりにして胡坐をかきながら、ロキ同様更に空を見つめる
登りゆく太陽の前に、一際輝く星

「明けの明星 確かルーぅシ…ファーと関連するんだったよな
神になり替わろうとして失敗、落された最高の天使…」
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