小ネタ・単独SS其の2

□過現交叉
1ページ/7ページ

・シュウ



今回の村雨は自然現象では無く、一部の天使によって引き起こされたもの

フェンリルが上着を脱ぎ、雑巾のように絞る
にじみ出た水が地を鳴らし、シャツも完全に透け、機能していない事は一目瞭然

マリクも無意識についた溜息と共に、フェンリルと同じ行動を取る
こうなった原因は今日の戦場にて、ザキエルとスサノヲの衝突があったため
初めは些事であった筈が、騒ぎを聞きつけたノトスとボレアースの加入で混乱状態へ
争いを止める為、仲介に入った天使同士でも予想外の大乱闘となり
その結果、全員が池にでも落ちた様な有様となっていた

「う…」

マリクがフェンリルに渡す為であろう、胸元に忍ばせていた煙草も完全に水没し
滲み出た溶液が真っ白なシャツを焦げ茶色に汚している
その光景を見たフェンリルは一瞬顔を顰めて、思わず声まで上げてしまう
あんな物を日常的に自分は吸っていのかと…初めて認識したから

(…もうちょっと禁煙 考えた方が良いのかもしれねぇ、真面目に)

それよりも、マリクのシャツ。何処かで替えを入手しなければ
…普段の自分達の利用している店…は、駄目だ。オーダーだから時間が掛かる

「買わないとな  行こう」

なるべく汚れに触れぬよう纏め、思案最中のフェンリルを促し
マリクは案内を始め冥府の門をくぐる
ケルベロスは…オルトロス、キマイラと楽しそうなミニ茶会中らしい
明るい笑い声がここまで聞こえ、邪魔するのも悪いとフェンリルはなるべく気配を消す

門からすぐの天界最下層シャマイン
基本は人間の町と変わらず、服も手ごろな値段でありながらそれなりに質の良い物が揃っている
(らしい  自分は一度も利用したことがないが)
しかし、やってきた店の前で何故か地蔵のように動かない二人

「………」

無言で見つめるドア

『シャツ各種 本日売り切れデス(ごめんなさい)』

どうやら、皆同じ考えだったようだ…まさか売り切れまでゆくとは…
…さて、どうしたものか

「あら、マリクじゃない」

名を呼ばれ、マリクは声を主を記憶から引き出す
確か…

立ち尽くす二人の前に、艶めかしい女性が腕を組んで立つ
夜の闇の様な黒髪が見事な波を描き
潤う唇の赤と口元の黒子が美の彩りを加えている

「お前は…」「誰だ?」

フェンリルが言葉を投げると

「ヒジュラよ」

相手も簡単に返し、マリクへを手を伸ばす

「なぁに?この惨状
いいえ、『水も滴るいい男』の方があっているかしら」

ヒジュラは、マリクの首元から頬に手を当て、胸元へと下し距離を詰めてゆく

「『惨状』で正しい」

対してマリクは軽くヒジュラを押しのける
そんな扱いで返されたにも関わらず、女は笑みを深めて見せた

「私の家で身なりを整えなさい、上に立つものがそんな格好じゃ示しがつかないでしょう?
シャツの替えぐらいはあるから   …貴方もいらっしゃいな」

ヒジュラがぐいっとフェンリルの腕を掴み強引な案内を始める

「は!?な…お、おい」

素っ頓狂な声と共に牽かれてゆくフェンリル
諦めにも近い溜息をつき、今度はマリクが後へ続く
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ