小ネタ・単独SS其の2
□双面
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目を閉じ、彼(か)の訪れを待つが
何時まで経っても、心待ちにしている『相手』が訪ねてくる気配は無く…
暗闇に慣れた目が、シーツや掛け布団の皺を細部まで虚しく捉える
(………)
僅かに開けられた扉の先、この部屋は防音だが
(流石に困る時があるので、扉は加工してノックなどが聞こえる仕様)
廊下側は普通の造りのまま
そこから窓越しに風の揺らめきや、木の囁き声ぐらい聞こえてもおかしくないと言うのに
彼等はフェンリルとは対照的に、深い眠りに就いているようだ
雨でも降ってくれたらよかったのに、と思う
その音が、待ちに待った心地良い眠りを一緒に連れてきてくれる
安心できるのだ
今、自分が何処に居るのか、確かな証明の一つとなってくれるから
無意識に寝返りを打ち無言で天井を見つめ
何時の間にか記憶と今の状況を重ね比べる
決して変えられぬ視点、締め上げられる苦悶
口に突き刺さる剣が与え続ける痛み
体を起こし、寝酒を獲る為サイドテーブルへ手を伸ばす
だが、机の上に大切に置かれた物が目に飛び込んできて、酒の代わりに手へと収める
あの時、マリクから受け取った鏡
蓋に刻まれた文字を読んで、そのままフェンリルの動きは静止する
何だか、咎められた そんな気がして
…今日の不眠の原因は、昼間の出来事にあると思う