小ネタ・単独SS其の2

□ 向後の鷗
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フェンリルをはじめとする三兄妹は、地上協力天使としての(仮にではあるが)承認を受け
そのための必須事項…いわゆる講義を受けに、シャマインに存在する講習施設へと向かう

そこまで向かう手段はヘルの車、手綱を握ると細雪の粉を舞い散らせながら馬は空を駆け登り
何も無い筈の空間にも関わらず、蹄の音が響き音を奏で周囲の木霊を働かす

光に反射する細かい雪の輝きは
かつてのヴァルキリー(彼女たちの甲冑に光が反射し、極光(オーロラ)が生まれた)のように
空へと一筋の七色線を描き、やがて溶け消えて行く

眼下の光景…空を飛べる自分達には、あまり珍しくも無いが
それでも何時もと違うシュチュエーションの為か、何時もより心が弾む気がした

「ん…」

下階層への入り口に近づくにつれ、巨大な建物がちらほら混じり始めた
オーディンやフレイ/フレイヤにトール…どれかに必ずあいつ等が住んでるはず
北欧神の家は総じて解りやすい…何故なら全てが金やら銀で造られているから

「趣味悪ぃ」

母と共に暮らし、父が来ることを待ちわびていた家
今住んでいる屋敷も、どこかかつての住処を彷彿とさせてくれる心地のよいものである
それに、この街の景観も白と黒をベースとしたシックな、それでいて洗練された建物が多い
だからこそ尚、悪目立ちするのだ

「かつて住んでいた家を、そのまま持ってきたそうですから」

ヘルが笑いで声を震わせ

「お陰様で、僕等も少し誤解されていましたよ」

ヨルムからは何時も以上に冷たい言葉が零れた





階層の堺である光の門を潜り、すぐ下の下層ラキアを抜けてまた扉
天界の最下層へとゆっくり車を下し
以前、地上協力天使を発表していたあのビルへ三人は入ってゆく


「フェンリル」

そこには、彼等を笑顔で迎えてくれる存在が居た

「そしてヨルムンガルド・ヘル 今回の話を受けてくれて感謝するよ」

フェンリルの養父とも呼べる存在であるティール
もののついでにフェンリルの頭を撫でている
その傍らには、穏やかな微笑を浮かべる天使が佇む

「ぁ… …貴方は…ミーミルさんですよね?」

ミーミル?
ヨルムは知っているのだろうか
男は、その見た目に不釣り合いな生々しい傷跡を首に携えている

「彼も、アースに属していたけれども巨人族でね
大天使も頼りにするほどの知識を持っている 今回の講師に適任な筈だ」

(こんな奴、居たっけか?)

どう記憶を探っても、前世での姿を思い出せない

「では、こちらへ」

釈然としないまま、講義室への歩みを踏み出す
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