小ネタ・単独SS其の2

□籠目‐カモメ‐
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今まで多くの本を読んできた中で、心に残った言葉がある。ずっと、今も
きっと、自分自身に重ねていたのだろう  その境遇を、結末を


「ヨルムンガルド」

凛と澄んだ声が、彼を呼び止める

「こんにちは、ソフィア様」

美しい女性が、笑顔と共にヨルムの元へと足を運ぶ
ソフィア…はじまりの天使の一人にして、ミカエルやガブリエルに匹敵するほどの実力と地位を持つ存在
彼女は露出が激しく、目のやり場に困る男性が多そうだが、ヨルムは顔色一つ変えずに対応する
ヘルで耐性を持っている為でもあろう…その精神力を見習いたい者が居るとか、居ないとか…
…まあ、今はそんな事どうでもいい

「貴方なら、きっと協力天使の任を果たせますよ」
「ありがとうございます」

礼を返し、彼女を見送る


「ヨルムンガルドだわ」

遠くから、自分に関しての会話が聞こえる
あの三人は、カリス三姉妹だったはず

「やっぱり美形よね」「本当…よね、ねぇ?言ってきちゃえば?」「あら、駄目よ」

彼女たちの言葉が小さくなり動きも見せなくなった
ふと、窓に薄く映し出された姿を見て瞼を下し、顔を上へと向け、透明な天窓から空を仰ぐ

その表情を、伺い知る事は誰も出来ない



コツン コツン

少し重そうな足取り
逆に、彼の行く先からはコツコツと軽快な足音が響く

「うわわわっ」

ぶつかりそうになって、相手が大げさに体を捻らせ交わす

「あ、弟君 じゃなくてヨルムンガルド    君!!」

元気いっぱい そんな印象を各自から持たれているナサギエル

「呼びやすいように呼んで頂いて構いませんよ?」

ヨルムの柔らかくて綺麗な笑みに、ナサギは視線を外すことが出来なくなる

「あ、うん
弟君の方が呼びやすいけど、やっぱり嫌かな?」
「いいえ、大丈夫です」

返答や仕草を見てナサギは思う
やっぱり(こう言ってはいけないのだろうけど)ロキ達と血のつながりがあるとは思えない、妹のヘルも同じく
実際、フェンリルと言う存在の仲介が無ければ、両親を想像できるものなど居ないであろう

「ナサギエルさん、兄さんにいつもよくしてくれていますよね ありがとうございます」
「え…いや 俺も結構甘えてるし よくしてるって、あまり無い…カモ…」

クスクスと、指で口元を隠しながらヨルムが笑みを見せる

「あ…」

ヨルムが突然何かに気付き、掌を広げるとカードが浮かび上がり、それを目の前に翳す

「母様からだ…」

(…あれ?)

その言葉が、ナサギの心に引っかかった

「すみません、要件が出来たので失礼します」

丁寧で律儀な受け答え

「あ!俺も地上で呼ばれてるみたい」

意識を集中させる

「ぅぇ!?」

召喚体へとリンクし、見えた相手の姿にナサギは小さく呻き硬直した
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