小ネタ・単独SS其の2

□本当の敗者
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トールの言葉…まさかそんな事を脳筋のトールが理解して居ようとは
―ああ、けど考えてみれば、天使のほぼ大多数から延々と同じような話を聞かされれば
トールですら理解することが出来ても不思議では無いか―と結論付ける
その反逆で激減した天界の戦力を補う為に自分達はスカウトされたのだから…『名目上』は
神から

今の世界で暮らす為の体を再生して貰ったのはいい…だが
この身自体が枷となり、完全な力を使えた事は一度も無い
変身など、生まれ持ち其の者自体を構成する力は別なようなのが幸いだ
本来在るべき存在で無い者が、唯一神以上の力を持っていても問題だろうが・・・
その分、かなり優遇されていると思う

「一人しか居ない神に勝てない…か
そう考えると、お前達は本当にとんでもない事をしでかしたよな」

トールの言葉が指すのは、先ほどのロキの夢でもあった『ラグナロク』
全ての命が呑み込まれ、息絶え
そして、相応しい者だけを残し次の世界へと繋げた事例

「お互いほぼ死に絶えたとは言え
結局、やる事全部やり遂げたお前の勝ち逃げだった」

しみじみと、頷きながら語るトールの声色は
内容の壮絶さにも関わらず世間話をするものとなんら変わっていない
そう、トールは先ほども話した通り脳筋
しかしその反面、恨みや憎しみは(本人が納得するまでがしつこいが)一度完全に発散してしまえば
内心でどう思おうと蒸し返さない潔さを持つ
お互い最大の敵と見なしていた我が子、ヨルムンガルドとでさえ
天界での再開後は徐々に和解し、今となってはロキ自身より友好的な関係を築いているようだ
その辺りが憎たらしくて、よくトールに悪戯を仕掛けるが
古くからお互いを知っている手前、トールも甘んじてロキのやる事成す事を受け入れている

(ラグナロクもトールから見ればただの喧嘩祭り…程度の認識か)

だからこそ自分達は合うのだろう
±で均等になれるのだから
太陽の光が、金星の放つ輝きを塗りつぶす

「…本当に失敗したのはルシファーかねぇ」

ロキの言葉に、トールが不思議そうな顔を向け
表情でロキの真意を伺う
…一度話した所でトールが理解できるとは思わないが

「知っている通り、俺様達の世界と今の世界は違う
俺さ…違うな 今まであった『多くの世界』を元にしてこの世界は作られた
で、何で神は俺様達を引き込んだ?」
「失った戦力の補充 だろ?魔王ルシファーに悪魔や罪人と戦う為、脳天使として呼ばれたんだからな」
「ああ、それも間違いじゃねぇ ただ」

脳ではなく能だが、指摘せずにロキは続ける
能天使は天界の実働部隊であり、最も悪魔との戦いを交わす
スカウトされた天使の最低限に属する階級でもある
働き次第によっては、それ以上の階級に変えられることも稀では無い

「…ってな」

そうこうしている内に、ロキの話が終わる

「…………ロキ」

やけに真剣な声
これだけ解りやすい話であれば流石のトールも

「俺は苺ソースがいい」
「………アア、ソウダナー ウマイモンナー」
「しかしリンゴも…ううむ、悩ましい所だ」

やはり、トールはトールであった、間違いなく

「うむぅ…言ってたら腹が減った… メシの支度でもしよう」

やおら立ち上がり、トールは沢へ向かって歩き出す
ロキも、それに続く…が
再び空を見上げる
すでに星は消え、朝日が世界を照らし上げていた

「悪魔・魔王と…か
まあ、もっとも…」

呟くロキの表情が、一瞬だけあの時―ラグナロク―のモノと重なる

「太陽にすら勝てねぇ『明星』ごときに…俺等が負ける気はしねぇがな」
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