小ネタ・単独SS其の2

□認識の相違
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深く椅子に腰を掛け、お互いが向かい合う
軽く深呼吸にも似た息継ぎ
アングルボダの口から言葉が紡がれる

「私は幸せだったの
アース神族に殺される前は、きっとあの世界で一番だったでしょうね」

通い婚状態ではあるが、ロキと言う愛する者と共に過ごし
やがて子にも恵まれた

「一番最初、フェンリルが生まれた時にね 私、正直戸惑っていたの」

狼の姿で生まれたあの子を、ロキに拒絶されてしまうのではないかと
フェンリルだけでなく連鎖的にアングルボダの事も…
そうなったら…自分一人でも育てていこうと思う反面
あの子を捨ててでもロキに縋りつきたいという気持ちも、確かに存在して…

(けれど…)

―「流石『捻くれ者な俺の子』だな
血は争えねぇし、一筋縄ではいかねぇって事か」―

笑いながらフェンリルを抱きかかえてくれた

「その時、私は何があっても大丈夫だと思ったの」

何時もそうだった
ヨルムンガルドもヘルも、異形の姿ではあったが
我が子として受け入れられた背景には、常にロキの存在があった

「あのロキにそんな一面があったとはな…」
「そうなのよ、だからきっと他の誰かに言っても信じて貰えない」

【まいったなぁ】というような笑み

「確かに 息子娘に至ってもあの状態では」

ヨルムンガルドやヘルのロキへ対する反応・仕打ちは知れ渡っている
ロキの悪戯の被害もあり、概ね天界は二人に対して同情的なのが現状だ

「ロキには弁解するつもりがないから…
けれどね、あの子達も心の奥底では何となく気付いてくれていると思うわ
だって、ロキが送ったプレゼント
捨てずにきちんと保管しているんですもの」

アングルボダの考えも正しいのかもしれない
しかし、自分自身の意識下では【妙な事】だと思う
あれだけ嫌うロキと根底で繋がろうとするのだろうか
ふと、妙な既視感を感じ、マリクは知識を引き出す
確か…

―子にとって、家族は世界であり、生み出した親は神となる。絶対の存在なのだ
抜け出すのは容易な事では無く、だからこそ悲劇が起こったのだろう―

そう、ルーシスの悲劇
報告書の一文にあった言葉に…





(なのに、
一体何度、心を打ち砕かれたのでしょうね
     私が死んでから)

ロキや我が子が辿る運命と最後
その果てに行きついたのは
何時気付いたのだろう、皆と同じように思える・感じる心が無かったことに
本当によっぽどの時、かと思えば皆が想像もしないような事に反応したり
何処か色々壊れたまま…

それは彼女だけではない。今もなお、彼等に残る遺恨
だが、フェンリルには…

【命は別の命と触れ合う事で新しい何かを生み出す】

何処かで聞いた、素敵な言葉
今あるもので無理なら、新しく生み出せばいい
現に、フェンリルへの心の特効薬は幾つも生み出されている

「ロキが煩わしくても、あの子の事
よろしくお願いしますね」
「…当然      ……………!…」
「え?」

マリクの反応にアングルボダは小首を傾げた
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