夜に舞う蝶

□3.美術部に入りました
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・主人公視点


立海初日、半分が過ぎた。



「玲〜?」



昼休み――、木陰で昼食をとった後のんびりしていた私に、一緒にいたアリスが声をかけた。


『ん? どうしたの、アリス?』


少し涼しい風を感じながら、微笑む。


「ねぇ、もう部活決めたー? どこにする? どこにするの?」


アリスは弁当箱を袋にしまいながら楽しそうに尋ねた。


『どこって、美術部だけど?』



……って、それこの前メールで聞かれたよね?

私、「美術部」って答えたよね?
そうなんだ〜、って返信来たよね?
学校でも今日、言ったよね?
授業中の自己紹介で。


おーい。人の話をちゃんと聞けアリス!


私は、思わず苦笑した。

そういうところも、全然変わってないんだと微笑ましくなる。


「ふーん。運動神経いいのにもったいない。加えて絵も激ウマってさ? 美人だし〜。いーいなあー。頭脳明晰才色兼備〜」



アリスは芝生の上に寝転がりながら、足をジタバタさせた。

まったくもう。世話が焼けるんだから。



でも、そんなところも大好きな親友なんだ。




『アリスだって明るいし、面白いし、一緒にいると元気がでる。何かあった時も、一番励ましてくれるのは、アリスだし。そんなアリスが、私は大好きだよ』


と、私が言うとアリスはガバッと顔を起こして立ち上がった。


「泣けることをいってくれるじゃ〜あないか〜〜〜〜〜〜! コノヤロぉ! ま、あたしは? どうせ? 明るさと元気が取り柄、みたいな!?」


足を広げて芝生の上に立ち、マッスルポーズでキメるアリス。



どうにもおかしくて、私は噴出した。


『女の子でしょ!? もう……、ブッ』




平穏な日々。他愛ない会話。私の望んでいたものが、今ここにある。


そう思うと、笑顔にならずにはいられない。



そう、私は周りの人を選んだのだから。



「あっ、見て? 変わった花があるー。おもしろーい。見て見て! 黄色い花がさいてる!」



暫くしてから、その辺をフラフラしていたアリスが、木にもたれていた私を、いきなり大声で呼んだ。


『え? なに?』


私は、アリスの話に少々興味を持って、詳細を求めて何事か訊く。



「コレコレ!」



するとアリスは、ピョンピョン飛び跳ねながら近くにある花壇を指さした。


ここからだと、丁度影になっていて見えない。



私は「早く早く!」とせかすアリスに応えて、素早く立ち上がると花壇に歩み寄った。



『これは……』







瞬間、私はそこに開いていた特殊な形状の花に、心奪われた。



一言でいえば、南国のイメージ。
黄色と、濃い赤の鋭い花。
周りを囲むのは、深いグリーンの大きな葉。
中々花屋でお目にかかることもない。


力強くて、鮮やかで、存在感があって……。




『綺麗……』




その何とも言えない独特のフォルムに、私は、妙に心が惹かれた。



「なんか、気に入ったみたいだね〜、玲」


アリスが優しく笑いながら、私の顔を覗き込んできた。



流石親友、以心伝心、かな。



『うん……、ていうかなんか、無性にこの花を描きたくなった。一応写真、撮っていこうかな』


「んだ、感性をくすぐるって? また、カッコイイことをもう、良いじゃん、良いと思うよ!」


アリスが、肩を竦めて笑った。



私は、ポケットから携帯を取り出した。
 
今日の授業後、この写真を見て、絵をかいてみよう。美術部入部一発目、明るくていいな。
希望に満ち溢れた今日この頃に相応しい。
いい絵がかけそうな気がする。



パシャ、っと写真を撮る。


写真の写りを確認すると、光の加減もいい感じだった。

それにうん、いいアングル。


携帯の画面の上に表示されている時間を見ると、昼休みが終わろうとしていることに気が付いた。


さて、そろそろ時間だ。早くしないと授業に遅れてしまう。


私はアリスと木の下に戻ると、弁当のバッグと、学習範囲を確認するために持ってきていた教科書を手に持った。


「にしてもさあ、玲ってほんと、綺麗なものとか好きだよね〜。ま、似合うからいいけど!」



アリスが荷物を片づけながら、ニヤニヤ笑う。



この子はサラっと人を褒めてくれる。


……お世辞だったりして。





――、と、その時。






「――――――」






『え? 今なんか言った?』


「え?」


私は反射的にアリスに尋ねたが、ポケッとした顔をかえされた。



あれ、今何か聞こえた気がしたのは、気のせいかな?


辺りを見回すが、誰もいない。

――木の精? じゃなかった、気のせい、……?



と、時間が無いことを思い出す。


『って、もう授業まで5分しかないよ!? 次の時間は、保健? ったく……、え、あ、いやいや、気にしないで』


私はイラッとして顔を歪め、慌てて誤魔化した。


しまった思わず。
いけないいけない。全てはもう封印したんだから。


冷静になれ、玲。


気が短いのは短所だ。



『のろのろしてると、置いてくよ〜?』


私は気を取り直して、校舎に向かって駆け出した。

微笑みながら後ろを振り返ると、アリスが教科書と袋をうっかり地面にぶちまけていた。


『遅れないでよね!?』


そして、私は校舎に駆け込む。








――――――――――――――――



「……クスッ、大変そうだけど、頑張ってね……、あの花は、極楽鳥花だっけ。花言葉は、”万能”、”気取った恋”、”全てを手に入れる”、まるで昔のアンタみたい……」




『〜? 何してんの〜? 早くいくよ? 急いで!』







「は〜い! ……その『急いで』って言い方も。ほーんと、なっつかしい」







平和な日々が続くことを祈って。




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