夜に舞う蝶
□5.別に、隠していた訳じゃない。
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・主人公視点
「ああ、おはよう。起きたみたいだね」
脇で、透き通った精市くんの声が聞こえる。
「あれ……」
もぞっと頭を起こした私の眼に飛び込んできたのは、精市くんの整った顔と美術室の風景だった。
そうだ。
精市くんに完成した絵を見せようとして……、そのまま眠ってしまったんだ。
そういえば、この美術室、妙に眠くなるような……。
ひょっとしたら、リラックスできるからかも。
増田Tの仕業と言うのはあるまい……。
……ところでひょっとして、寝顔、見られたかな。
『お、おはよう……』
見れば、彼はスケッチブックに何か絵を描いているようだった。
私の位置からは、ちょうど反対側で見えない。
まぁいいか。それより先に、早く絵を見せたいな、と思う。
彼は毎日、私の為にここに足を運んでくれた。
短い間だったが、色々とお世話になった。
急いで髪を整え、立ち上がるとキャンバスの裏に回り込む。
『あの、絵、描けたよ』
精市くんはクスッと笑うと、スケッチブックを閉じて足を組んだ。
「やっぱり。そうだろうと思って、起きるのを、楽しみに待ってたんだ」
ドキドキ、と鼓動が聞こえる。
普段の私なら、こんなに緊張することも無いのに。
優雅で繊細かつ温かい彼の微笑みを、上手くキャンバスに描くのに多少苦労した。
それに彼、どこか存在感もあるから、なかなか細部までこだわって表現を凝らす必要があった。
気に入ってくれると、いいけれど。
『どう、かな……?』
私は、ゆっくりと、キャンバスにかぶせられた白い布を引っ張った。
バサリ、と音を立て、布が地面に落ちた。
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