雲外に蒼天あり

□第3Q.結束と決意表明
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黒子vs火神の1on1の次の日は、風も昨日より強さを増し、曇天からは雨が降り注いでいた。



「リコ先輩、折角なんで1年生に先輩方の力を見せるのと、1年生の力がどの程度か先輩方に把握してもらうのと、一緒にやりませんか?」

という名前の提案を発端に、誠凛バスケ部は早速、1年VS2年のミニゲームを行うことになった。

昨年、現在の2年生は部活創設1年目にして、1年生だけで決勝リーグまで残っている。

仮入部員達は、普通じゃない、その成績に「勝てないだろ」とビビる。

――黒子と火神を除いて。


「ビビるところじゃねえ、相手は弱いより強い方が良いに決まってんだろ。行くぞ!」


火神は、早速先陣を切って進みだした。



名前とリコは、隣同士並びながらニコニコと彼らの様子を見守る。

「さぁて、ルーキーたちは何処までやれるかな?」


「まぁ、見ててくださいよ、リコ先輩」


「楽しみー」


リコは名前に笑いかけると、ホイッスルを口にくわえてジャンプボールの位置についた。


ピーッというホイッスル音が体育館内に響くと同時に、黄色(1年)と青(2年)がそれぞれ構え、1年は火神、2年は水戸部がボールを奪い合う。


ボールを取ったのは、より高くとんだ火神だ。


弾かれたボールを坊主頭の1年河原浩一がキャッチし、早速ゴール前に構える火神に向かってパスが送られる。


先輩たちの伸ばす手をかいくぐるようにしてボールが手に届くなり、火神は力任せに荒々しいダンクを決めた。


その勢いで二年が一人後方に倒れる。



「うわぁ〜、マジか今のダンク」

「すげぇ〜」

と一年が唖然とする脇で、リコも目をぱちくりさせていた。


名前は、火神は相変わらずだな、と呟いて笑う。


「ほら、言った通りちょっと幼いですけど、中々だと思いませんか? 彼」


「う、うん……。想像以上だわ……、あんな荒削りのセンス任せのプレイで、この破壊力」


「まだまだ成長しますし、結構な即戦力になります」


名前が言う横で、シュートしたままリングからぶら下がっていた火神は、手を離すとスタッと軽やかに地面に着地する。


「とんでもねぇな、オイ」

日向も、苦笑しながら額の汗を拭いた。


(即戦力どころか、マジ化け物だ)



その後も、火神は次々と豪快なダンクを決め、気付けばスコアは11−8で1年が優勢。


2年衆は息も絶え絶えだ。


「1年にここまで押されるとはな」

「つーか、火神だけでやってやがる」


ところで、火神が力任せにダンクを繰り返しているのは、他ならぬ黒子のせいだった。


(ッチ、逆なでされてしょうがねぇ……)


スティールはされ、スピードにも遅れている。


(意味深な事言ってた割に、そう役にもたちゃしねぇ。雑魚の癖に口だけ達者っつうのが、一番イラツクんだよっ!!)



火神は、シュートされかかったボールを相手より更に高く飛び、弾きとばした。



「高っ!」、「もう火神とまんねぇ〜!」等と一年生は盛り上がる。



「でも、この程度の先輩方じゃありませんよね?」


「その通りよ」


リコは名前の問いに笑顔で答えると、再び真剣な顔つきになってピッとホイッスルをならした。


「そろそろ大人しくしてもらおうかな」

日向のその言葉のとおり、遂に二年生が動き出した。




ボールを持った火神に、3人のDF。

ボールを持っていなくても、2人。


火神が動けずにいる間に、日向のボールがゴールに入り、また入り――、火神は全く動けないまま、気が付けばスコアは15−31で2年リードに変貌していた。


1年は「やっぱり強い」、「てゆーか、勝てるわけなかったし」と息も切れ切れで、2年達の強さに圧倒される。


火神が動けなければ、話にならない――、それが1年の力の現状だった。


更には「もういいよ」と言った茶髪の1年降旗の胸倉を火神が掴み、怒鳴り散らす始末。

黒子の膝カックンによって降旗は地面におろされたが、その黒子の動じない態度が、さらに火神の精神を逆なでした。



「あー、何か、申し訳ないというか、なんというか……。でも、リコ先輩、あんな風に単純なところもまた、火神の長所なんですよ……」


名前が眺める先で、火神が黒子をぎゃあぎゃあと攻撃する。

と、伊月と小金井が「黒子って何時からいたっけ」と話を始めた。



「あ、審判の私も途中から黒子くん忘れてた」


リコは、苦々しげに名前に言う。


そして、名前に「え?」と意味ありげなイケメンスマイルで聞き返され、愕然とした。


「あれ? マジで何時からだっけ??」


名前は、動揺するリコを見てクスッと笑う。

そう、黒子の影の薄さは、ホンモノなのだ。



「後半戦、黒子の事もよーく見ててくださいよ、先輩」


「え、う、うん……」





体育館の外では、降っていた雨が何時の間にか止んでいた。


後半戦開始後。


「すいません、適当にパスもらえませんか」


「は?」


黒子は、背後にいた1年福田に一言告げた。





「がんばれ、あと3分!」

コート外から声がかかる。



「てか、貰っても何ができるんだよ。せめて取られんなよっ!」



パスの投げ場所を失った福田が、遂に黒子にボールをパスした。





「リコ先輩、きますよ」

「えっ?」


隣から低い声をかけられ、リコが聞き返した次の瞬間。



ボールは、いつの間にかゴール前の降旗の手の中におさめられていた。


驚きつつも降旗はそのままシュートフォームに入り、ポイントが2点追加される。


「えっ、はいっ、ええ、今どうやってパス通った?」


これには、しっかりディフェンスをしていた筈の二年達も驚くしかない。

穴は無かったはずだ。自分たちは確実に守っていた筈なのに。


なのに、何故。



リコは、名前の「きますよ」という意味深な言葉を思い出し、感じる違和感に、もしやこれはとんでもないことが起きているのではないか、と目を疑った。



その後も、名前が「ほら」とか、「きますよ」等と言い、その度に、パスが2年のDFをかいくぐるようにして1年生へ通る。


反応する余裕なんてない、気が付いたらパスが通って決まっている――、そんな奇妙な状況だ。




そこで、名前が隣のリコに向かって解説を始めた。



「黒子テツヤ。存在感の無さを利用して、パスの中継役となるプレイスタイルを執る。しかも、ボールに触っている時間が極端に短い」

名前に言われ、リコは驚きに目を開く。


「じゃあ、彼は元の影の薄さをもっと薄めたってこと!?」


「はい。――ミスディレクション。手品などに使われるテクニックをご存知ですか? それによって、ボール。即ち、自分以外に相手の意識を誘導する」


「つまり、彼は試合中影が薄いというより、もっと正確に表現すると、自分以外を見るように仕向けている!?」



すんなり理解したリコに、名前はその通りです、と微笑みかけた。


「元帝光中のレギュラーで、パス回しに特化した見えない選手。それが、彼――黒子テツヤです。因みに、影の天帝は別にいますけど」


行きついた答えに、リコは脱帽するしかなかった。


「噂には聞いていたけれど、本当に実在するなんて! キセキの世代、幻の6マン!!!」



気付けば、スコアは36−37、一本シュートが決まれば、1年の勝利だ。


動向を固唾をのんで見守るリコの隣で、名前は満足げに笑う。


そして、最後黒子がフリーで放って外したパスを、「だから弱ぇえ奴はムカツくんだよ!」と火神がキメた。


「ちゃんと決めろ、タコ」という火神の下で、黒子は、微かに微笑む。




結果は、38−37で1年の勝利。



火神――、そして、他でもない、黒子による円滑なチームプレイがもたらした結果だった。



「ね、リコ先輩。伊達にキセキの世代じゃないでしょう?」


涼しく笑うイケメン(女)名前に、リコが顔を赤くしたのは、また別のお話。





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