雲外に蒼天あり

□第4Q.キセキの黄
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誠凛バスケ部――、部室。


制服から練習着に着替える部員たちの中、はじめに着替え終わった小金井が、ベンチの上の月バスに気付いた。


「お、あれ?」


――「偉業 全国三連覇 帝光中学『キセキの世代』に迫る」



表紙には、大きく特集名が書かれている。




「これって、黒子が帝光にいた頃のじゃない?」


小金井は雑誌を手に取り、隣で着替え終わった日向と頁を開いた。



「おぉ〜、1人1人特集組まれてるよ」


日向はペラペラと紙をめくるが……、


「黒子は――、記事ねぇな」


黒子について書かれた記事はどこにもなかった。



「6マンなのに、取材こなかったの?」


小金井に尋ねられて、着替え終わった黒子が振り向く。



「来たけど忘れられました」



黒子の一言に、二年三人は「切ねぇぇえ……」とそれぞれ悲しんだ。


「そもそも、ボクなんかと6人は全然違います。あの6人は本物の天才ですから」



――「6人」。



キセキの世代の当事者たちにとって、キセキの世代の天才は5人ではなかった。




「『6』人?」



黒子の言葉に、2年3人が反応する。

キセキの世代は5人+黒子の計6人の筈だ。


天才が6人+黒子とすると、計7人――。



そこで、ペラペラと紙をめくっていた日向が、「おい」と隣の伊月と小金井に声をかけた。


二人は、「ナニナニ?」と日向が開いているページを覗き込む。




「えーっと? 『キセキの世代には、5人の他に「影の天帝」と呼ばれる、キセキの世代の裏側で圧倒的な力を誇り、彼らを常に勝利に導き、天才5人の尊敬を一点に集める存在がいる』――?」


小金井は音読し、「あっ」と日向達と顔を見合った。



そう、キセキの世代には幻の6マンの他に、この『影の天帝』の噂があったではないか。

一節では「幻の6マン=影の天帝」とまことしやかに囁かれていたが、「6マン」こと黒子は今ここにいる。



「ってことは、黒子、キセキの世代の天才ってお前を抜いてホントは6人いるってことか……?」


かなり興味深々で訊かれ、黒子は話していいのか少し迷ってから、それだけなら言ってもいいだろう、と「はい」と頷いた。



それを聞き、三人は「マジかよ」と顔を見合わせる。

例えば火神が言っていた様に全国優勝目指すとして、それは即ち倒さなければならない強敵が――、それも相当強い相手が1人増えるという訳で。


火神の様に燃える性質ではない故に、三人は「こりゃたいへん」と各々これから望む山の高さを見上げた。


日向が、その新たなるキセキの世代についての記事に良く目を通す。


「えーっなになに、『名前:井上 蓮(通称)。ポジションPG』――主将と被ってるじゃねえか、えー? 『身長:不明』? 写真は無し――、試合記録も無し? 『そもそも実在する部員かどうかも不明の為、データは疑わしい』はぁ!? んだコレ」




左様――、「影の天帝」のデータは、そもそも当時の帝光バスケ部の中でも、限られた一部の人間しか持っていなかった。


謎すぎるデータと記事を前にして、三人は黒子をじーっと見つめる。

その目は「どういう事だ教えろ黒子」とあからさまに主張していて、逃げられそうにないと思った黒子は、しぶしぶ口を開いた。




「だから、『影の天帝』なんですよ。でも、確かに実在していました。『影の天帝』はちょっと派手なネーミングですが、まさに、その通りです」




三人は、黒子の意味深な言葉に顔を顰める。


「はぁ〜? んだ、教えてくれねぇのかよ」

日向は溜息を付き、教えろと目で主張して、黒子を睨んだ。


が、黒子はこれ以上喋る気はなかった。


「本人に喋っていいか確認してないのでイヤです」


「ったく」


黒子に教える気が無いとわかり、三人がやれやれ、まぁいずれわかるだろ、と諦めた頃。



「戻りましたぁ〜! カントク戻りましたぁ〜! 練習試合、okだったみたいッス!」


部室に、坊主頭の一年河原浩一が笑顔で駆け込んできた。


「おぉ〜」と、試合を心待ちにしていた一同は歓声をあげる。


だが、「どこと組んだんだろう」という日向の問いに対して帰って来た言葉が、二年生の顔を青ざめさせた。




「さぁ〜、でもなんか、スキップしてましたけど〜」


何気なく言う河原の前で、「スキップしてたぁ〜!?」と日向は眉間にしわを寄せて叫ぶ。




部内に、不穏な空気が流れる。





「おい、全員覚悟しとけ。アイツがスキップしてるってことは、次の試合の相手相当ヤベぇぞ……」




一年三人と二年二人は、日向の警告にごくり、と唾を飲んだ。



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