雲外に蒼天あり

□第6Q.海常戦〜試合終了
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「おーせおせおせおせおせ海常! おーせおせおせおせおせ海常!」

海常バスケ部メンバーの声援が、体育館一杯に反響する。


「いけー! おせー! いけおせ誠凛!」

誠凛のベンチメンバー達も、それに負けじと大声で叫ぶ。


注目の中、試合、第2Qが始まった。


まずは海常ボールから。

どしょっぱつから黄瀬がドリブルで一気にコートを駆け抜け、ダンクを決める。

続いて、誠凛ボールは日向が、更にその次、海常は黄瀬がシュートを決める。


海常のディフェンスは、ずっとマンツーマンのまま。

続く誠凛ボールで日向は伊月にパスをし、火神がボールを得る。


火神VS黄瀬。

今の所、誠凛の攻撃にもディフェンスにも、今までと違う点は無い。

黄瀬は、火神に尋ねる。

「何か変わったんスよね?」

しかし、そこから只のドライブでゴールに向かって走る火神。


(ただのドライブ? また、フェイダウェイとか……?)


だが、火神は不意に振り返ると、後方に向かってボールを放った。

「んなっ!!」

油断していた黄瀬は、反応に遅れる。

黄瀬が振り返った頃には、黒子が後ろ手にボールの軌道を300°近く変えていた。


(なっ、黒子っちと連携で!!!??)


その頃には火神は既に、ドリブルでゴールの前に走り込み――、シュート。

「おぉ〜!」と歓声があがり、リコはよし!、とガッツポーズをする。


「ナイッシュー!」ベンチからも、声が上がった。


続く、OF火神VSDF黄瀬再びでも、火神は黄瀬の前から、黄瀬の背後の黒子に向かってパスをする。

(またッスか、同じ手は!!)

再び火神にボールが渡ると思って動いた黄瀬。


だが、誠凛は同じ手を連続で使って出し抜く気などさらさらない。

黒子は黄瀬の隙を突いてボールを日向にパス、日向はその場から3Pを決めた。


「キター! 3P! 5点差!」

テンションが上がった誠凛ベンチの叫びを受けて、日向は得意げにメガネを押し上げる。

「っふん、ちょっとは見直したかな〜、一年ふた……」

そうしてドヤ顔をするのだが、彼らは日向の事など全く見ておらず。


「よっしゃディフェンス!」と張り切って歩いていく火神に、日向は「おい!」と悲しい呼び声をかけた。



「相当打ち込んでるな〜、あの4番」

ボールを持った海常の選手が、笠松に話しかける。

「それよか火神だ! 抜くパターンに、黒子との中継パスを組み込んできやがった」

「パスもらうだけだった火神が、パスもするようになっただけだろ? そこまで変わるか?」

「っは、偉い違いだよ、バカ!」


笠松は、険しい表情で声を荒げた。


「今までは、黒子のパスと火神の1on1は、あくまで別々のオフェンスパターン。只の2択にすぎなかった。だがパスがつながったことで、お互いの選択肢が増えて、前より一段上の攻撃力になる!」

しかも、その要である黒子は、黄瀬にもコピーできない、言わば天敵だ。



(火神くんと黒子くん、この二人なら――!)


リコは、希望を持った表情で二人を見守る。


「あ」


ただし、たまに上手く行かない事もあるだろうが。


ボールを落した二人を見て、リコはまぁたぶんギリで行ける、と呟いた。



黄瀬は、息も絶え絶えの中、黒子とベンチの名前に鋭い視線を向ける。

「黒子っちに名前っち……」


黒子は、敵意を向けてくる黄瀬を真っ直ぐに見つめた。

「黄瀬くんは強いです。ボクはおろか、火神くんでも歯が立たない。でも、力を合わせれば――、3人でなら、闘える!」


黄瀬は、黒子に並んだ火神と、ベンチにいる名前から真っ直ぐな視線を受ける。

「やっぱ黒子っちも名前っちも変わったッスね。帝光時代にこんなバスケはなかった。けど、そっちもオレを止められない!! そして勝つのはオレッスよ!!!」


黄瀬と、誠凛側の黒子、火神、ベンチの名前の間にバチバチと火花が散る。


「黒子っちの連携と名前っちのゲームメイクをお返しするのは出来ないッスけど、黒子っちがフルに40分持たない以上、結局後半ジリ貧になるだけじゃないッスか!!!」


黄瀬は、声を張ると切り替えし、火神に背を向けてゴールへ進む。



「そうでもねえぜ」

黄瀬の背後からかかる、笑い混じりの火神の言葉。


「んな、はっ!?」


そしてその通り、黄瀬は目の前の光景に目を見開いた。







黄瀬、黒子の1on1。





「黒子が黄瀬のマーク!?」

予想外の事態に、笠松が反応する。


黄瀬は、あまりの驚きに言葉も出ない。


外野もこの事態を前に、大きくざわめきだす。

「黄瀬についてんのって、えーと? すげぇパスしてた奴だよな」

「いや、でもさ、パス以外目立ってなかったような……」


「相手になる訳ねぇ!!!!!」


コートを見下ろしていた2階のメンツが、そろって叫んだ。



「まさか夢にも思わなかったッスねぇ、黒子っちとこんな風に向き合うなんて」

「ボクもです」

「一体どういうつもりか知らないッスけど、黒子っちにオレを止めるのは無理ッスよ!!!」


黄瀬は、黒子を前に身を屈め、左右にフェイントをかけると黒子の右を抜いた。

が、その先には火神が待ち受ける。


「――違うね。止めるんじゃなくて……」



「――盗るのよ!!!!!」


ベンチで、リコと名前が叫んだ。


聞こえた言葉に黄瀬が固まるも、もう遅い。

黒子は黄瀬の背後から手を伸ばし、黄瀬がついていたボールを黄瀬の前方に向かって押し出した。


「んなっ!?」

(バックチップ!? 火神のヘルプでひるんだ一瞬を!?)

黄瀬は意表を衝かれ、思わず黒子を振り返る。


「お前がどんなすげぇ技返してこようが関係ねぇ、抜かせるのが目的なんだからな!!!」


黄瀬が動けずにいる間に、火神の後ろから走り込んできた伊月がボールを奪う。


誠凛がポイントを決める。


「くっそ! 只のダブルチームの方がまだマシだぞ!!」


笠松は、苦々しげにコートの中で吼えた。



(あの影の薄さで後ろからこられたら、幾ら黄瀬くんでも反応できないでしょ!)

リコは、してやったりの笑みを浮かべて戦況を見守る。



「そんなの、抜かなきゃいいだけじゃないッスか!」

黄瀬は、再び黒子と向かい合った。


「誰も言ってないッスよ! 3Pが無いなんて!」

黄瀬は、黒子の目の前で3Pのシュートモーションに入る。


だが。


黒子に頭の上に置かれた、大きな手。

それを支柱に火神の身体が、黒子の後ろから宙高くに飛ぶ。



火神は黄瀬の腕の中から、ボールを後方に叩き落とした。

黄瀬は、愕然と目を見張る。

(やられたっ……!! 平面は黒子っち、高さは火神がカバーするってことッスか!? 名前っちっ……!!!)


間接的にとはいえ、こんな戦術を投下してくるのは、間違いない。

3人の連携に、黄瀬は出し抜かれた。


(外からのシュートは、モーションがかかっからな! 厄介だぜ、やっぱりコイツら! しかもこの流れをつくってるのは黒子だ! コートじゃ一番のへぼで1人じゃ何もできないはずが! 信じられねぇ!)


「速攻!」

火神は、黒子の頭から手を離すと、叫んで黄瀬の横を走り抜ける。

火神の言葉を聞いた誠凛メンバーも、身を翻してディフェンスにつく。



だが次の瞬間、名前は目を見開いて弾かれたように立ち上がった。




「涼太動くなっっっつ!!!!!!!!!!!!!!」


足を一歩前に踏み出し、名前は自分が出せる一番の声量で叫ぶ。



突然響いた叫びに、ギャラリー含む一同は、ハッと身を固めた。

そしてその叫びは、確かに黄瀬にも届いていた。



だが、黄瀬が言葉を認識したのは、素早く振り向いた後だった。

黄瀬が言われたとおり動きを止める頃には、振り向いた反動で動いた黄瀬の手は、心ならずも既に黒子の顔面に直撃した後だった。


「あっ!!」



「テツヤッ!!!!!!!!!!!」


名前が、倒れる黒子の姿を前にしてベンチで叫ぶ。


体育館は一瞬静寂に包まれ、叫びの名残だけがグワングワンと天井の方に反響した。



ドサッ、と黒子の身体がしりもちをつくようにして、コートに崩れる。



「黒子くん!!!」


リコも名前に続き、急なアクシデントに、黒子の身を案じて叫んだ。

笛の音が響き、「レフェリータイム!!」と審判が焦った声をだす。


(ここで黒子にアクシデントだと!? よりによってこんな時に……)


名前は、立ち上がったまま、「チッ」と舌打ちをした。



「黒子ォ!」

日向が叫ぶ。


ゆっくりと上げられた黒子の貌は、痛みに歪められていて。

さらに、額からは鮮血が流れ落ちていた。


その姿に黄瀬は言葉を失い、リコは「ハッ」と息を呑んだ。
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