The mermaid of deep sea

□1.はじまり
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どこまでも澄み切ったスカイブルーの空を、翼を広げ、声高らかに鳶が舞う。


水色の美しい海に面した喉かな町に、太陽が眩しく降り注ぐ、春の日。


両側を古い家屋にはさまれた狭い小道を抜けた先、リュックを背負った茶髪の男子高校生が、道を小走りで駆けていた。


「おはよ〜、タムラさん」

彼は、坂を上る手前、道の左側に立つ家から出てきた白い服の老婆に、走行速度を落として、明るい声音で朗らかに挨拶をする。


「おはよう、真琴ちゃん。コレ持っていきな」

そのまま走り去ろうとしたところを、優しく笑顔で呼び止められ、彼は女性から、何やら銀色の小さな包みを受け取った。

「あ、有難う! いってきまーす!」

「いってらっしゃーい」


彼――真琴は笑顔で礼を述べると、別れを告げてそのまま目の前の坂道を駆けあがる。


間もなく真琴は、白い鳥居を数本進路に臨む、狭く長い階段に差し掛かった。

真琴は階段を一段とばしで駆け上り、ふと聞こえた猫のなきごえに、途中で数段足を戻す。


見れば、階段脇に茂る植物の影から、小さな白猫が顔を出していた。


「おはよ」

真琴は階段に膝を付き、右手を差し出して、もらったスルメイカの切れ端を猫にやりながら、優しく穏やかに微笑む。


それから立ち上がり、また階段を駆け上った。



そうして、たどり着いた一軒の家の前。

典型的な田舎の日本住居といった感じの、二階建てのそれの玄関先に立ち、真琴は軽くインターホンを押した。


ピンポーン、と音が鳴る。


だが、返答は無い。


真琴は数歩後進して、二階の窓を見上げるものの、やはり返事が返ってくる気配はない。


「しょうがないなぁ……」


真琴は小さく溜息がちに言うと、強行突入すべく、その家の裏口に向かって玄関を離れた。






と、ちょうどそのタイミングで、ガラッと玄関が開く。


「誰ですかー」

ぼんやりとした声と共に、僅かに開いた引き戸の隙間から、玄関先にボサボサの頭が突き出された。


まさに今起きました、といいだしそうな髪型、貌、しかもパジャマにパーカーというスタイルで玄関先をぼーっと見つめるのは他でもない、名前だ。


だが、折角出たというのに、玄関先には誰も居ない。


「なーんだ、ピンポンダッシュかー。朝からご苦労様ー」

名前は、水色のパーカーの長袖に隠れた手で、片目をゴシゴシとこすった。


そうして、あくびをしながらガラッとドアを閉める。


「そろそろ着替えるかなー」

呟くと、昨日から使用している自室に、一人、姿を消した。
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