雲外に蒼天あり

□第1Q.誠凛バスケ部
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4月上旬、桜が咲き誇り、麗らかな青空の下で春風に花びらが舞う季節。


創設二年目の新設校、私立誠凛高等学校はこの日、第二回目の入学式を迎えた。



途中参加者もあり、少しざわついた入学式であったがそれもまた、青春の始まりの一頁に刻まれる事だろう、現在一年生は無事に入学式を終え、今や正門入ってすぐから校舎までずっと続く、部活勧誘の荒波に呑まれていた。



咲き誇る桜だが、生憎見る者は殆どいない――というより、1年にしろ2年にしろ、カナリ盛んな部活勧誘のおかげで見る余裕がなかった。


「ラグビー興味ない?」


「日本人なら野球でしょ!」


「水泳! ちょぉ〜、気持ちいよ!!」

通り過ぎる1年生達に、チラシやら看板やらを持った2年生が次々襲い掛かる。

歩けば必ず声をかけられる――、誰しもがどこかしこでつかまって、なかなか前に進めない状況だ。






そんな中、誠凛高校バスケ部も新入部員を集めるべく、白い紙に大きくボールが描かれちょろっと説明がかかれた白黒チラシを、大量印刷して笑顔で配っていた。


「バスケ部〜、バスケ部はいかがですか〜??」


そう言って紙を行く人に向けながら、商品の販売の如く勧誘するのは、誠凛高校バスケ部二年、黒髪猫口の小金井慎二だ。


「小金井、如何って事ないだろ」


と、彼は早速背後でチラシを配っていた黒髪のイケメンにツッコまれた。


「他にどういやいんだよ」


小金井が不満げに訊くと、黒髪のイケメン――、伊月は右手で天を指さし、桜が舞い散る中でクールに微笑んで言う。


「新入生はバスケ部、バスケットだけに助っ人募集中」


キリッと容姿はカッコいいのだ。声もカッコいいのだ。一見したらクールなイケメンなのだ。


が、この伊月 俊という男。


聞いての通り、ダジャレ好きの残念イケメンなのだ。


小金井は、途端に引き気味の顔になった。


「もういいよ、伊月のだじゃれは」


そして溜息を付き、彼に策を聞くことをあきらめ、さらに伊月の後ろでチラシ配りをしていたのそっとした男の方を向く。


「水戸部、声出していこうぜ!」


「……」


小金井に言われて水戸部は微笑みながら頷き――、そして、黙ってチラシを差し出した。


「結局出さねえのかよ、声」


溜息がちにツッコむ小金井の前方を、派手な水色頭の男子生徒が通過するが――、バスケ部部員達は彼をまるで見えていないかの様に、スルーした。


そして、小金井は「あ〜君、ちょっといいかな」と水色頭の男子生徒のすぐ後ろを歩く生徒を呼び止めた。





水色頭の生徒――、他ならぬ黒子テツヤは、その影の薄さのあまり現在バスケ中でもないのに、ミスディレクション中だ。


本を読みながら、人並みをかいくぐるようにして黙々と歩いていく。


「あ〜君、読書家だねぇ〜! 文芸部かな、どう?」


「あ〜、コレ、マンガなんで!」


「漫画も立派な本だよぉ〜」


黒子は、自分の直ぐ後ろを歩いていた茶髪の生徒にメガネの男子文芸部員がチラシを渡す腕を潜り抜けて進む。


そして本から顔を上げて、硝子張りの掲示板の中に貼られている『部活ブース案内』と書かれた地図の前で立ち止まった。



黒子が現在ミスディレ中なのは、他でもない、入る部活を既にコレ、と決めているからだった。

余計な勧誘など必要ない、自分はここに入る、と決めている部があるのだ。




――『バスケ部』。


黒子は、野球部とアメフト部のブースにはさまれたその表記を、じっと凝視する。




そして今は女子生徒に押し流されてどこぞにいるだろう名前と、中学時代のチームメイトたち他の事を頭の隅で思い出しながら、静かにその場所へと再び歩を進めた。



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