宝物

□フリーss:ニコヤさん
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フリーss:ニコヤ
「食辛:幸せの音」



窓から流れ込む光に、目を覚ました。
腕を伸ばしても、気配すらのこっていない。
「……」
そうだ、今日は朝から仕事だといっていた。
じゃ、来なきゃいいのに。
独り頭の中でつぶやきながら、深呼吸する。
「…んー…」
軽く伸びをしてみて、あたりを見ると、
酔って帰って散らかしていた部屋は綺麗に片付けられ、
キッチンのほうからは、かすかに油のにおいがした。
きっと、朝食も用意してくれているのだろう。
まめなやつだ。
「あー…」
意味もなく、ため息交じりの声を出しながら、二度寝しようかどうか、決めかねてい
た。
体は少し重かったけれど、不快感はさほどない。
まったく、まめな奴だ。
昨日、夕方から飲んで、深夜に帰宅したとき、明日は仕事だから、といって帰ろうと
する食を、珍しく自分から引き止めてしまった。
飲み足りない、といっては家に少し買い置いていた酒をあおり、
食に愚痴っていたような記憶がうっすらとよみがえる。
俺は二日酔いをしない体質で、酔っても記憶をなくすようなことにはならないのだ
が、酒癖はわるい。
そんなにしょっちゅう飲んでいるわけでもないから、酒に強いわけでもなくて、
たまに飲むと、すぐに泥酔してしまう。
そして昨日は、酔った勢いで…その…食と寝てしまった。
後始末は全て、食がやってくれたのだろう。
やっぱり…まめだなぁ。
まめな男っていうのは、好かれるらしい。
食は誰にでも優しく、そしてまめだった。
散らかった部屋も、朝食も…朝から仕事だったんだよな?
覚醒してゆく意識と、頭の中で繰り返される、昨晩の自分の痴態。
「…もう絶対飲まない」
食と飲んでいると、つい、気が緩んで飲みすぎてしまう。
食が甘やかすからだ。
酔いつぶれてしまっても、必ず介抱してくれる。
ベッドから起き上がると、やっぱり腰がいたかった。
食が用意してくれている朝食のにおいに誘われて、キッチンに向かう。
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