□好きなわけ
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よく考えることがあります。
いつから辛はこんなにも可愛くなったんでしょう。と


私が生まれたのは、餡も辛も生まれた後で、当時の私は、私が生まれる必要なんて無かったんじゃないか。とずっと思っていました。だから私は必死になって街の人達に笑顔をふりまいていました。


街の人達はパン工場の名前を出せば笑顔で迎えてくれた。そのおかげで案外、すんなりと私は街にとけこめた。


ただ、あの頃。

街のみなさんや工場のみんなとは仲良くなれたのに辛にだけは距離を置かれていた気がする。

「それじゃ行ってきます。」

バタコさんは買い物に、ジャムさんとチーズは散歩に、餡はパトロールに出かけてしまい、私と辛は留守番を頼まれた。それまで私は、辛に極力近づかないようにしていたので会話がむずかしい。

「辛、コーヒー飲みますか?」

なんて言い訳をして少しでも距離をおく。

「んー、俺飲めねぇからいいや。」

そんな私に気付きもせずに辛は手をひらひら振った。

「では、カフェオレにしましょうか。」

そう言ってカフェオレを作ることに集中する。こうすればリビングとキッチンとで距離が開く。しかし、それは案外早く出来てしまった。


何かを見るわけでもなくテレビをつけて同じソファーに色違いのカップを持って隣同士。彼は膝を抱えて丸くなっていて何だか微笑ましい。すると、彼が突然話しかけてきた。

「あのさ、食って俺のこと嫌いだろ。」

何をこの人は言い出しているのだろう。固まってしまった私に辛はつづける。

「なんか今まであんまり話したこととかないし、」

その通りだ。だってあなたが私を嫌いなのだから。

「だからさ、なんか」

これ以上嫌われないように距離を置いた。

「ごめん。」

ずずずと音をたてて私のいれたカフェオレをすする。私は自分の滑稽さが浮き彫りになったようで笑い出したくなった。辛はちゃんと私と向き合おうとしてくれていたのに、私ときたら勝手に思い込んで、逃げて、なんて汚い。


「辛の素直なところがうらやましいです。」

そお言うと彼はキョトンとした顔をした。私とは全く違うきれいな存在。

「辛、愛しいです。」

「はあぁぁぁ?!」

思いっきり私から離れて辛が叫んだ時ちょうど餡が帰ってきた。「ただいまぁ。」辛は餡にしがみつき、私を指差す。血の気が引いた顔で。

「食が変態だっ」

いつまでしがみついてるんだろう。

「辛、僕が居ない間に何かされたの? まっ、食はもともと変態だから仕方ないよ。」

まったく、餡には言われたくないですよ。


私はあなたのその純粋さが好きで、それを持つあなたも好きで、きっともうずっと前から好きだったのでしょう。だから、怖かった。あなたに嫌われることが。




●ぉわり●
 

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