□思い知る
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まさかと思う。
だってありえない事だから。







食が女の子にもてるのは周知の事実。そんな事はもちろん俺も知っている。


パトロールの帰り道、食の車を見かけて声ぐらいかけようかと近くに降りた。のが間違いだった。食は女の子に囲まれて楽しくお話中。女の子の一人が食に花を渡した。何嬉しそうに笑ってんだよ。声なんてかけられる雰囲気ではなく、俺は帰ろうと踵を返した。覗き見してるみたいでかっこ悪いし。

ぼんやりと聞こえていた会話。聞こえないふり。

「私も・・・好き・・・ですよ、」

食の声。
女の子の笑い声。
今にも泣き出しそうな俺。



とりあえず家に帰ってきた。
頭の中がぐちゃぐちゃする。

あいつ誰にでもあんな事言ってんのか?

―だったら、俺はバカみたいだ

こう言う時は酒を飲むに限る。それで明日の昼までぐっすり寝るんだ。冷蔵庫から有りったけのビールを取り出す。


5缶目のビールを開けたとき、インターホンの鳴る音がした。ほろ酔い気分どころかしっかり酔ってしまった俺は居留守を覚悟する。しかし、嫌がらせか?と思うほどに何度もインターホンを押される。観念してドアを開けると一番会いたくないやつが立っていた。あの花を持って。
一瞬にして酔いもさめる。

「どうしたんですか、こんなにお酒飲んで。」

「べつに、」

なんかもう、顔も見れない。

「お花もらったのでおすそ分けです。」

あの花を俺に。

嬉しいわけがねぇ。

「食のアホ。」
「え?」

「お前が貰ったんならお前が持ってろよ!」

俺にはわかる。
あの女の子の気持ちが
こんなことされたら悲しい。

「え?」
困ってしまった食。
もっと困ればいい。

「お前さぁ、結局何何だよ!」
もぅ止まらない。
酒と一緒に飲み下した思いは急激にあふれ出る。

「あーゆー事みんなに言ってんのかよ!」

「ふざけんなっ!」

食の冷たい手が俺の頬に触れる。熱くなった俺を覚ますように。
「何を言っているのかさっぱりわからないのですが。辛はどうして泣いているのですか?」

「泣いてねぇし、」

理由は簡単。
寂しいから。
悲しいから。
伝わらないから。

「パトロールの帰りにお前を見かけて、声かけようと思ったら花もらってて、」

食は突然笑った。
俺の涙をぬぐって。

「あの時言ったのは」

「私もこの花好きなんですよ」

にっこり、意地悪い顔。
「もちろんお花より何より辛が一番ですけど?」


こいつが心底、嫌いだ。
アホ、バカ、
食のバカ。
俺のアホ。

「これって、
やきもちですよね?」

止まらない涙。
ぬぐう手もずっとここに。


「うっ、うるせー!」


まさかと思った。
だってありえない事だから。


そのまま抱きかかえられ

「一緒にお風呂入りましょう」
「降ろせっっ」

「温めてあげますから、ね」

「降ろせって、、んっ」
キスを降らされる。




この後、飲んですぐ風呂に入ったせいで酒がまわり、俺は二日酔いと腰の痛みに苛まれるはめになった。


●おゎり●

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