倉
□走る
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夜 12時。
風呂も入ったし、
明日のカレーの仕込みもばっちり。そろそろ寝るかな。
辛は大きなあくびをして布団に潜り込んだ。
・・・・!?
電話が鳴った。
こんな時間にめずらしい。
当たり前のように無視を決め込み頭まで布団を上げる。
む゛〜。
ワン切りかと思ったが案外長く、眠気がどんどん覚めていく。
やっと止まった。
と思ったらまた。
これを10回繰り返して、辛はやっと布団から出た。
っとにどこのどいつだ!
「もしもし?!」
「かーれーいー」
このうざったい声はあいつしかいない。
「何だよこんな時間に!」
「ふふふ、辛の声が聴きたくなっちゃいました。」
向こうは今までないくらいの上機嫌。だからってこんな時間に電話かけてくんなってんだ。
突然、食のうわっと言う声で電話の向こうはごたついた。
「ごめんね、辛。」
餡もそこに居たらしく、電話口の声が変わる。
「何なんだよ、こんな時間に」
食では話にならない。
「いやぁ、今二人で飲んでたんだけど食が酔っちゃってさ。」
食でも酔うことが有るのか。
少しそこには興味がある。
「っで、なんで俺に電話をかけるんだよ。」
「知らないよ、勝手にやってんだから。止めてもきかないし。」
こいつ絶対そんなに止めてないだろ。心底面倒くさいと言うのが伝わってくる。
「だから今から迎えに来てよ。」
はぁ?!
今は夜12時。
寝る着満々のパジャマ姿。
「絶対に嫌だ。」
電話越しでは未だに食が騒いでいて声が聞こえてくる。
「君、自分の恥ずかしい事これ以上ひけらかされたいの?」
・・・はぁっ??
どういうことなんだ。
「例えば君は耳が弱いとか。」
「例えば君がトランクス派だとか。」
「ちょっと待てぇー!!!」
電話で叫んでしまったせいか、餡が嫌な声を出す。
「早く来た方が良いと思うけど?」
有無を言わせない餡の口振り。こいつがヒーローなんて信じてたまるか!
「かーれー大好きですよー」
食にまた電話が変わる。
こいつは人の気も知らないでしっかり出来上がっているらしい。
「今から行くから変なこと餡に言うんじゃねえぞっ」
パーカーをひっつかんで走った。
あいつがこんなにもだらしないのは初めてだ。いつも完璧でいつも紳士で悔しいくらいにかっこいい。
だから、走りながら。
口ではバカとか言いながら。
頬は緩んでいたり。
頼られる事をこんなにもうれしく思う。
いっつもバカにされてるから今日は思う存分バカにしてやる。
「っとに、食のばーか。」
●おわり●