庫
□ただいま
1ページ/1ページ
最近すれ違い生活が悪化している。原因は俺の職場にある。インフルエンザが流行だし、その上胃腸風邪も重なって。夜勤が嫌とか、休みが欲しいとかではなくヒロさんに会いたい。
久しぶりに帰ったのは深夜の2時。窓から明かりはさすがに見えない。ヒロさんも明日お仕事なのだから当たり前だけれど。
眠たくて仕方がない。
でも、ヒロさんに会いたい。
疲れているからそれはなおさら強くなる。
静かに、起こしてしまわないように。
これが最近の日課。
これが楽しみ。
ヒロさんはよく寝言をもらす。いつもあまり聞き取れない。
ヒロさんが寝ていることにつけ込んで頭をなでる、やっぱりふわふわしてる。いつもの眉間のしわが無くて少し幼く見える。綺麗な顔。
突然ヒロさんの口が動いた。
「・・・き。」
き?
何だろ、前にもこんな事あったような。
き。
きもいだったら嫌だな。
き。
あきひこだったらもっと嫌だ。
き。
「・・・のわき。」
気がつけば唇をふさいでいた。ただ、名前を呼ばれただけなのにそれがこんなにも幸せだなんて。
ヒロさんは文学部の助教授をしているから、きっとたくさんの言葉を知っている。その中に俺の名前がある。膨大な量の言葉からこれを選び出してくれたのだ。
「・・のわきっ」
部屋の中は薄暗い。
でも俺にはわかる。
眉をひそめて、
口はへの字で
なのに顔は真っ赤で
「すみません、起こす気はかなかったんですがつい。」
「ついじゃねぇだろうが!」
はぁ。なんて大きなため息。
「おかえり。」
●ぉゎり●