□ただいま
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最近すれ違い生活が悪化している。原因は俺の職場にある。インフルエンザが流行だし、その上胃腸風邪も重なって。夜勤が嫌とか、休みが欲しいとかではなくヒロさんに会いたい。


久しぶりに帰ったのは深夜の2時。窓から明かりはさすがに見えない。ヒロさんも明日お仕事なのだから当たり前だけれど。

眠たくて仕方がない。
でも、ヒロさんに会いたい。
疲れているからそれはなおさら強くなる。

静かに、起こしてしまわないように。

これが最近の日課。
これが楽しみ。



ヒロさんはよく寝言をもらす。いつもあまり聞き取れない。

ヒロさんが寝ていることにつけ込んで頭をなでる、やっぱりふわふわしてる。いつもの眉間のしわが無くて少し幼く見える。綺麗な顔。

突然ヒロさんの口が動いた。

「・・・き。」

き?

何だろ、前にもこんな事あったような。

き。
きもいだったら嫌だな。

き。
あきひこだったらもっと嫌だ。

き。


「・・・のわき。」


気がつけば唇をふさいでいた。ただ、名前を呼ばれただけなのにそれがこんなにも幸せだなんて。


ヒロさんは文学部の助教授をしているから、きっとたくさんの言葉を知っている。その中に俺の名前がある。膨大な量の言葉からこれを選び出してくれたのだ。


「・・のわきっ」


部屋の中は薄暗い。
でも俺にはわかる。

眉をひそめて、
口はへの字で
なのに顔は真っ赤で


「すみません、起こす気はかなかったんですがつい。」

「ついじゃねぇだろうが!」

はぁ。なんて大きなため息。


「おかえり。」


●ぉゎり●

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