庫
□ごはん
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駅からの帰り道。
買い物袋片手に歩く。
どうせ今日も野分は帰ってきていないんだろう。
野分の好きなものを考える。
一度それとなく聞いてみたが予想通りと言うか何と言うか、
「ヒロさんが作ったものなら全部好きです」だそうだ。
体力のつくものをとか
栄養があるものをとか
少しでもおいしくとか
考えていると急に淋しくなってきた。
どれだけ強がったって、結局のところはやっぱり。
会いたい。
たったの5分とかでも良いんだ。何が好きかって聞く、たったそれだけの他愛のない会話で良いから。
今日はカレー。
多分、きっと、絶対、
野分が好きだと思うから。
にんじんは小さめに切る。
これは俺があまり好きじゃないから。
家を見上げると光が漏れていた。早足になって気がつけば走っていた。ドアを開ける。
「たっ・・ただいま。」
「お帰りなさい、ヒロさん。」
ぐつぐつぐつ。
「最近家に帰れてなかったから今日は俺が作りますね。」
俺が笑ったのは、野分が煮込んでる鍋がカレーだった事じゃなくて、台所に置いてあるカレー粉が甘口だったからじゃなくて、
切りかけのにんじんが小さいから。
案外、ばればれだった。
でもきっと、野分だからばれってしまったのだろう。
あいつは全部知っているから。別に教えた訳じゃないのに。
二人でゆっくりカレーを食べた。俺が作ったのより美味い。
好きなものは何ですか?
それは、ほら、
目の前に。
お互いに。
●おゎり●