庫
□ゆめ
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よくは覚えていないが夢を見た。起きたらすごく悲しくて切なかった。
こんな時にもやっぱり野分はいない。夢ぐらいでこんなにも胸が痛むとは。
いつもならそんな事すぐに忘れるのに、どうしてだろう、胸のざわつきが止まらない。
野分に会いたい。
そしたらきっとこんな痛みも一瞬で消えてしまうのに。
そんな事を28の男が言うのはあまりに情けなくて、かっこ悪い。それにたかが夢ごときで忙しい野分をわずらわせる訳にはいかない。
仕事から疲れて帰ってきた。
野分は帰ってこない日だから夜ご飯は簡単に駅前で買ってきたものを。
あったかい風呂に入ればこの感じもおさまるだろう。なんて、少し期待していたのに。
あんまり、寝たくない。
でも明日も早い。
現実はそんなもんだ。
いつもよりも深めに布団にもぐる。くるまるように。
野分がいた。
目を開けたら野分。
また夢だ。
こう言うのは逆にこたえる。
一応確認のため野分の頬をつねった。
「ひろさん、痛いです。」
あれ?
もう一回つねった。
「ひろさん、ねぼけてるんですか?」
本物だ。
「のわき。」
「ただいまです。」
つねった手をとって、暖かく心地良い手の平に包まれる。
そこに唇がふれた。
なんだろう、
泣き出しそうだ。
「野分、」
自分から両腕を伸ばした。
そうすればすぐに抱きしめてくれる。
俺が野分を見て安心出来るように、俺も野分にとってそういう存在でありたい。
「ありがとう」
なんて気恥ずかしくて、
声には出さず、胸の奥でつぶやいた。
●おわり●