庫
□こおらせたまま
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「さよなら」も「またね」
も言わずに出てきてしまった。
留学が決まって、準備におわれて、すぐにその日はやってきた。
たくさんの伝えたい言葉が溢れて喉につっかえてしまう。
もしも、このまま一生会えなくなってしまったら。
「待ってて下さい。」
なんて、そんなわがまま言えない。ヒロさんにはヒロさんの幸せがある。
本当は喉まで出かかってる。
「さよなら」は絶対言いたくない。例え今日がエイプリルフールでも言いたくない。
ヒロさん家のドアノブに手をかける。もう、本当に俺はこのまま会えなくなる。
今日みたいな平凡な幸せを壊したくなくて。この幸せを瞼の裏に焼き付けておきたくて。
「さよなら」
なんて言ったら本当に一生会えなくなっちゃいそうで。
「ヒロさん、大好きです。」
玄関の扉をしめた。
そのまま、もう4ヶ月。
バタバタと忙しい日が続いた。
留学中は勉学に集中すると決めてた。そうじゃなきゃわざわざ留学した意味がない。
なのに、
やっぱりダメだ。
新しい事を覚えたら、ヒロさんに教えてあげたくなる。
ヒロさんの幸せを願ってる。
なんて実は言い訳で、
やっぱり待っててほしい。
せき止めて、溢れて、溢れて、溢れた思いはもうどうしようもなくて、届かないってわかってても、ちょっとでも届くかもしれないってバカな妄想を捨てきれなくて言葉が積もっていく。
出せない手紙。
よく考えたら、何も変わっていなかった。
ヒロさんと出会った時からずっとずっと溢れていたんだ。
●おわり●