庫
□ひみつきち
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それは俺たちが小さかった頃の話しだ。
「なぁ、ひみつ基地作ろうぜ!」
「「ひみつきち?」」
辛は昨日、テレビで見てしまったのだ。ひみつ基地を。ひみつ基地で、誰にも邪魔されずに遊ぶ子供を。ひみつ基地の中はおかしいっぱいで、食べ過ぎても、ジャムさんやバタコさんに怒られない。
「それってどうやって作るの?」
餡は眉をひそめた。
「それならまず、場所を探さないと。」
めずらしく食はこの手の話しにのった。今、食が読んでいる本に関係しているらしかった。
辛たち三人は、35℃の暑さの中飛び出した。
「辛はなんで虫取り網持ってるんですか?」
一番先頭は辛、その後ろにいる食が話しかける。
「なんでって、突然ヘビとか出たらこれで捕まえるんだよ!」
「そんなとこ、秘密基地にするつもりなの?」
辛たちから少し遅れて歩く餡。
ゔっと、言葉につまる辛。
だってなんか、こういうの持ってた方がかっこいいし。
闇雲に歩いて、町外れの森まできた。いかにも、誰にも見つからない!って感じ。
「なぁ、この森の中にしようぜ!」
二人は、頷いた。
いい場所はないか、と森の中をどんどん歩いた。時々、辛がセミをとったりした。すぐに、餡と食に怒られて逃がした。
「あっ。雨、降ってきた?」
餡がぽつりと呟いた。
三人とも、木々のその先の淀んだ雲を見た。ねずみ見たいに灰色だった。見上げた頬に雨粒が降る。
三人は駆け出した。
ここまで来た道の途中にあった洞穴へ。
「あ〜ぁ。」
餡がわかりやすい溜め息を吐いた。三人は膝を抱えて、激しさを増す雨を眺めていた。
「通り雨でしょう。」
食は餡をなだめるように言う。
ふと隣を見ると、三人の真ん中で辛は膝に顔をうずめている。
「ジャムさん達、心配してるかなぁ。」
餡が、またぼんやりつぶやいた。
すると、辛は膝を抱く手の力を強めた。
無言のまま。雨音を聞いた。
ガラスを通さないで聞く、そのままの雨の音だった。重く、激しく、のしかかる音。
どんどん、どんどん。
心臓がうるさくなってきた。
早く、帰りたくなってきた。
帰らなくちゃ。
帰らなくちゃ。
「・・・あのさ、」
辛が突然つぶやいた。
顔はまだ膝にうずまったままだ。
雨音に消えてしまいそうな声だった。
「こんなことになって、ごめん。」
食はどうしていいかわからなかった。食だけじゃなく、辛もそうだった。
そんな時。
「こんなことって、何?」
餡がゆっくり立ち上がって、おしりの土をパンパン払った。
「もしかして、これのこと?」
ゆっくり指差す、その先を。
辛と食はのぞき込むように見た。
見たことないおっきな虹。
「今日、楽しかったよね。」
餡が二人を振り返った。
そうして三人は家へ向かって走り出した。
結局最後まで走ってたのは、一番前にいた辛だけだったけれど。
●おしまい●
→あとがき