□作ってあげる
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ウサギさんはここ二、三日〆切目前の原稿と戦っている。

そんなウサギさんは荒れに荒れていて、俺はあまり近寄れない。理由は簡単、この状態のウサギさんに近づいたら何をされるかわかったもんじゃないから。

バタンとドアが開く音。
ウサギさんがふらふらした足取りで階段をゆっくり降りてきた。

「・・・美咲、コーヒー。」

どさりとソファーに座ったウサギさんは、キッチンで洗い物をしていた俺に消えてしまいそうな声で言った。

今回は重傷だな。

言われたとおりに、コーヒーを持って行く。原稿がやっと書き上がったらしい。

「お疲れ様。今日の夜、何食いたい? 何でも好きなもの作るよ。できる範囲でだけど。」

ぼんやり思案する瞳。

「弁当が食べたい。」

・・・は?
これはえーと、突然ハンバーガーを食べたくなるのと同じ原理なのか。

「何それ。コンビニとかのやつってこと?」

「違う。そんなんじゃなくて、タコのウィンナーと厚焼き卵、デザートにはうさぎのリンゴが入っているっていうあの弁当。」

ウサギさんが食べたい物はわかった。わかったけれど、普段弁当なんて作らないから、冷凍食品も買ってきていない。それより何より、弁当とは。

「ウサギさん、夜どっか行くの?」

弁当ってことは持ち運ぶのか、と思いきや。

「行かない。」

なんじゃそりゃ。

弁当の具はどうしたらいいんだろうな。今日の晩御飯の予定は親子丼だったから、カラアゲくらいなら作れそうだけど。

「ウサギさん、他は何入れてほしい?」

コーヒーを机に置いて、目を閉じている。

「・・・エビフライ。」

エビなんてあるはずがない。
時計は今、夕方四時を指している。近所のスーパーに行く時間はありそうだ。そしたら、冷凍食品も買える。

スーパーに行こうとすると、ウサギさんもついて行くと言い出した。この状態のウサギさんを外に出すのはあまりに危険だけど、反対する方がためらわれる。


二人でスーパーの冷凍食品コーナーに並んで、好きなものを選んだ。ウサギさんは手当たり次第にカゴに放り込むから、俺はそれを戻すのが大変だった。

手を繋いで帰り道。
今時の冷凍食品はすごいよねって、訳の分からないウサギさんの話をきいた。そして、手作り弁当なんて初めてかもしれないってことも。

俺は、それを寂しい気持ちで聞いていた。

ウサギさんは、弁当を作っている途中、気になるのか何度も何度も覗きにきて、鬱陶しくて笑えた。


ウサギさんは、案外元気だ。


家なのに弁当を食べている俺たちは、変な感じ。でもウサギさんは嬉しそうだから、俺も嬉しい。

少しでも、できる限りで、
貰ってばかりな俺が、ウサギさんに何か与えられるように。



●おわり●

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