擬アン

□三歩進んで
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じれったい程くっつかない恋愛小説ほど面倒なものはない。


「なぁ、食?」

ソファーに座る私の足元で、マンガを読んでいる辛が私を見上げた。上目使いのまっすぐな瞳に、私は吸い込まれるように返事をする。左手の紅茶を机においたのは、辛の言葉を一字一句逃さないため。

「かぼちゃ食べてるとさ、なんか堅いのにぶち当たるじゃん。あれって何だ?」

最近「何を突然」とは思わなくなってきた。慣れってすごい。とりあえず辛の読んでいる漫画を見てみる。やっぱりそれとは関係ないようだ。辛が今読んでいるのは、某有名海賊マンガ。

私は辛のこういう類の質問が好きだ。呟くような、無意識にでてしまったような。

辛に言われた通り、頭の中にかぼちゃの煮付けを思い浮かべる。

「あれは、かぼちゃの皮じゃないですか?」

辛が少し唸って、また首を傾ける。

「じゃあ、何で他の皮はやわらかいんだ?」

言われてみれは確かにそうだ。いや、かぼちゃ料理を作るときに何度か見たことがある。あれは多分、かぼちゃについた傷。白いやつだろう。でも何で堅いんでしょうか?

「あー、確かにそうですね。」


じれったい程くっつかない恋愛小説。それを片手に頭の中はカボチャだらけ。


あなたが三歩近づけば、私は一歩近づけない。私はあと、一歩だけ足りない。



●おわり●

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