擬アン
□おてほん
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「お前、くせーんだよ!」
こう言われたのは、もう何年も前のはなし。
ああ、私が本当に臭いということではないですよ。私が当時つけていた香水が、辛にあわなかったようなんです。
これを言われた時、ちょうど餡も一緒にいて、長い間からかわれました。
「そういやお前、もう香水つけねぇの?」
お昼ごはんを食べていると、向かいの辛が首を傾けた。
「ええ、辛はあまり好きではないでしょう?」
臭いと言われてから、香水はほとんどつけていない。
「ふうん。」
辛は聞いておいて、そっけなく私が作ったパスタを食べている。スプーンを使うと食べやすいことを最近やっと覚えたようだ。
香水をつけていると、辛は抱きしめさせてくれない。いつも以上に全力で嫌がられる。だから、つけない。
「香水つけてみたくなったんですか?」
「いや、そうじゃなくて」
辛は、パスタを飲み下した。
「もらったんだけど、俺使わねぇからさ、お前使う?」
・・・もらった。
「誰からもらったんですか?」
香水を渡すなんて、女性以外考えられない。私の選んだ香りを、とかなんとか、そういうことでしょう。そんなの初耳です。
「ああ? おむすびマンだよ。」
おむすびがどうして・・・。
昨日お結びは小結と一緒にパン工場に久しぶりにやってきて、みんなで歓迎パーティーをした。お結びには、小結がいるのに。まさか・・・。
「おい、変なこと考えてねえだろうな。」
お結びは、寡黙でとっつきにくいタイプの人だが辛は憧れている。女性の中には、あの無口をかっこいいという人も多い。
「では、私が貰っておきます。」
「そうか、んじゃ後で持ってく。」
またパスタを食べ始める。
カチャカチャと軽い音が囁いている。
「あっ、やっぱ今のなし。」
ぽつんと、軽い音がとまった。
「お前、香水つけんなよ。」
「どうしてですか?」
あの香水は、辛に会わなかったけれど今回はまだわからない。私が聞いたとたん、辛の顔は赤く染まった。
そういうことですか。
「・・・べっ、別になんとなくだ。」
真っ赤な顔が俯いてしまう。
「私は辛の匂いが好きなので、香水はつけてほしくないですね。」
辛が私を睨む。
「よくそういうこと言えるな。」
「本当のことですから。」
いつもどおり微笑むと辛は平静を装って、またカチャカチャとフォークを動かし始める。空回りを繰り返す辛の指。素直な辛。
照れ屋なあなたにお手本を見せてあげる。見せたって、真似してくれないけれど。あなたができないことを、できる私でいたいので。
●おわり●
名前だけ、お結び出してみました。寡黙なやつです。寡黙な人とか好きです。ところで、お結びってこんな表記でいいんでしょうか。上手い表し方があったら、教えてください!