擬アン
□もちつもたれつ
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それは午後の昼下がり。
次のロボット開発に行き詰まり、俺様は図書館にきていた。もちろん変装は、ばっちりだから誰にも気づかれてはいないはず。
あっ、
見慣れた後ろ姿の白髪。食がいた。机に本を積み上げて壁を作っている。
後ろからそっと近づいてみる。なんの本を読んでいるのかわかれば、それからあいつらの弱点を見つけ出せるかもしれない。
数学の本
天体の秘密
フランスの詩集に
雑学本
いったい何冊読んでるのだ?
ぱたん。
ふわりと本を閉じると、食が振りかえった。気づかれていたのか。「おや、どうしたんですか?」なんてわざとらしい微笑みをくれた。
「俺様は次のメカの研究をしにきたのだ。」
えっへんと威張ってみても、簡単に流される。
「その本からすると、次は爆発系ですか?」
食は俺様がわきに挟んでいた本を指差して言う。こいつには何でもお見通しなのだろうか。
「私は君の作るものに興味があります。設計図、見せていただけませんか?」
敵から興味があると言われて、舞い上がってしまった。
「今回は特別に、見せてやるのだ。」
机に今制作途中の設計図を広げる。食はひとりわかったようにうなずいたり、質問をしたりする。
「菌、ここをあと5p分厚くしてみてはどうですか?」
設計図の土台部分をちょんちょんと指をさしてた。食が指さしたそこは、いつも何故か爆発が起こり、俺様がここにきた理由でもあった。すぐに言われたとおり、5p分厚くして計算しなおす。そうか、問題は爆薬じゃなく、土台のもろさだったのか。
「貴様が行ったとおりなのだ!これで、間違いなく完成できるのだ。」
そう言うと、
「じゃあ完成祝いに、アイス食べません?」
なんて笑った。
食は数冊の本を借りると、図書館の外にいたアイスクリーム屋でアイスをおごってくれた。別にいらなかったのに、と言うと「辛に慣れちゃってるんですよね」なんて困ったような幸せそうな顔をした。辛はいつも、アイスを買ってもらっているのか。
ベンチで2人アイスを食べる。このことは、とりあえずドキンちゃんには黙っておこう。
顔の向きはそのままに、ぼんやり食が口を開いた。
「あと何日ぐらいで、さっきのできそうですか?」
「んー。明日にはできるな。でも、貴様はバカなのだ。お前が手伝わなかったら、あんなにすごいメカは作れなかったのに。」
食は、くすくす笑って、延びをするように立ち上がった。
「いいんですよ。最近餡が、君がこないから不機嫌でうっとうしかったんです。」
そしてベンチのすぐ横にあるゴミ箱にアイスのカップを投げ入れて手を振った。
さっそうと歩いていく後ろ姿に騙されて、かっこいいなんて思ってしまった。
でも確かに、あれは孤独で意地悪で正義のヒーローだったのだ。
●おわり●
食は理数系、菌は工学系です。