擬アン
□砂糖少々
1ページ/1ページ
そういう行為が終わった後、珍しく辛が起きていた。いつもなら後始末をすると、すぐに寝てしまうのに。
「お前の髪の毛邪魔で寝れないんだけど。」
ベッドの中で見つめあうのは、まだ数回しかしたことがない。いつも辛は、私に背を向けてしまうから。辛は、私の髪を一束もって、好きなようにもて遊んでいる。私は、辛が安眠できるようにと起き上がって、近くの机を探す。眼鏡がなくても勝手知ったる自分の家だから大丈夫。ゴムを見つけて髪をまとめる。その間も辛はじっと私を見ていた。ね、これでいいですか?って笑ってまた元の場所にもぐる。
すると今度は、指をとられた。掌をつかんで、まじまじと見つめる。時々指と指をつかんで左右に広げたり、爪をなでたりされた。
「俺最近、カレーの食べた皿とか洗いすぎて手黄色くなってきた気がする。」
私は、答えるように逆に辛の手をとった。私の手より、少し小さい、男性らしいごつごつした手だ。この手がさっきまで私の背中に爪をたてていたのだと思うと、たまらくなってしまったが、気をまぎらわせた。
私にされるがままだった辛いの左手は、私の手を払いのけて、私の鼻をつまんだ。
「なにするんですか」
そういうと、次は頬を引っ張られた。もちろん痛みはない。優しい、優しい手だった。
「接触欲だよ。」
そういって、私の頬をまた引っ張った。
「保健の授業で習っただろ」
保健の授業というフレーズが、辛らしいなと思った。
「ひたひです、かれー」
痛くはないが、嫌がった方がいいだろうと抵抗してみる。辛は面白がる風でなく、くすりと笑って手を離した。
「もう寝ましょう。」
「なんだよ、それ」
「あんまり辛が可愛いから」
「臭いものには蓋!」
辛が難しい言葉を得意げにいう
「早く寝なさい」
「寝る気になれば、すぐに寝れる」「じゃあ寝ましょう」
「でも起きてんだよ、頑張って」
今度は本当に力をこめて、私の頬を引っ張った。
「だからお前も起きてろよ」
今日はきっと眠らない。もうカーテンからは薄く白い光が漏れてる。私の頬の辛の手を包んで、やんわり剥がしキスをする。辛は当然だといいたげな顔。
なんでもない話を同じベッドの中で話すなんて、まるで運命共同体。細胞膜をこえて繋がれる。
●おしまい●