擬アン
□ぴざまん
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「あ、これすげえうまい」
私の隣で、ピザマンを食べる辛が、目を丸くしている。美味しすぎてびっくりしたらしい。
私は嬉しそうな辛をみて、それはよかったと微笑む。さっき商店街を通ったときに私が買ってあげたものだ。私は温かな缶コーヒーをこくん、と飲んだ。
「なあ。」
辛が私を見上げる。
「これすっげー旨いからくってみ?」
辛が二口欠けたピザマンを差し出した。
美味しいから、減ってしまうのに、私にくれる。
こんなこと、私には絶対にできないのだ。
辛は、損も得も考えていない。オレンジに包まれた表情が笑っている。愛しい。心底そう思う。
最近、学んだことがある。
こういうとき、私は辛がおいしいと思うなら、全部食べていいんですよ。と言ってきた。だって本当のことだ。でも、辛を本当に喜ばせるには、少しだけかじって、「本当だ、美味しいですね。」と言うほうがいいのだ。辛の美味しいものが減ってしまっても。
私は今まで学んだとおりにぱくんと食べる。あ、本当に美味しい。辛は、私の一言目を待っている。
「美味しいですね、これ。」
「な!美味いよな!」
私が嬉しいのは、美味いからだけではない。それを辛に、いつか伝えたいなと思う。
無くならないように、ちびちびピザマンを食べる辛のとなりで、缶コーヒーをひとくち。
私の口から、ほんわりと白いくもがでた。
●おわり●