純情
□特別で曖昧な存在
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ヒロさんと、篠田さんです。
初対面からお別れまでの間のことだと思ってください。
ヒロさん→大学生
「やぁ、上条君。」
大学からの帰り道。篠田さんの不動産屋の前で呼び止められた。俺はもちろん足を早める。
「なにも無視することないじゃないか。」
何が可笑しいのか、クスクス笑いながら篠田さんは俺の後に続く。どうやら俺が帰るのを待っていたようだ。カバンもコートも着ている。
「俺に、何かようですか。」
できることなら他の奴らみたいに、二度と会いたくなかった。それが相手にわかるように会話する。
君は本当に可愛げがないね。そう言って、篠田さんは俺の隣に並ぶ。この人は俺の気持ちを知った上で、からかうのが好きなんだ。
「そうそう、この間家に腕時計忘れていかなかった?」
言われてギクッとした。篠田さんの言う通りだったから。でも返してもらうつもりはない。
「今は持ってないから、家に取りにおいでよ。」
二度とあの家には行かないと決めていた。なのに篠田さんは俺を無理やりアパートまでつれていこうとする。あまりのしつこさに俺の方が根をあげてしまった。
「家の前まで行くだけですからね。」
嫌な予感はずっとしていた。むしろ嫌な予感しかないくらいだった。アパートにつくと篠田さんは笑った。
「夜ご飯まだだろ? 食べていきなよ。」
俺はもちろん断った。だけど、俺の持つ言葉全部を使っても、篠田さんに言いくるめられてしまう。適当に座って待っていなさい、なんて命令される。篠田さんが俺に背を向けて料理を始めた。本気になれば今なら帰れる。だけどそれをせず、俺はテレビのスイッチを押した。
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