純情

□深呼吸
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ふと思う。
あのころの自分に、今の自分を見せたらどう思うだろう。

あの頃の俺はヒロさんが好きで、毎日ヒロに好かれるために必死だった。

きっと一緒に住むなんて言ったって信じられないだろう。

何をやっても届かない気がしていた。四年の差は、いつも俺につきまとう。ヒロさんは先生で俺は生徒。頑張った結果がこんなのじゃ全然だめだ。俺ばっかりが好きで、俺ばっかり必死で。頑張れば頑張るほど、自分が幼稚に思えた。ヒロさんから時々見える大人の余裕が、俺を何度も抉る。

相手にもされていないかもしれない。

別にそれだってよかった。
いや、よくはないけど。それくらいでは、この感情は消えそうになかったから。

子供っぽい嫉妬と、独占欲。

あの頃の俺に、もしも会うなら、いっぱいアドバイスをしてやりたい。こうゆうとヒロさんは嫌な顔をするとか、留学前にもう一度ちゃんと話し合えとか、たくさん。

「おい、野分。やっぱ不味いのか?」

久しぶりのヒロさんの手料理に感動して、いろいろ考え込んでしまっていた。

「いえ、すっっごく美味しいです。」

「お世辞はいいから、さっさと食え。」

「お世辞じゃなくて、本当においしいです。」

「そっ、そりゃよかったな。」

すぐに赤くなる子供みたいなヒロさん。

俺はヒロさんを幸せにできるだろうか。俺だけが幸せになってしまわないだろうか。



俺は、俺を幸せにしてくれるヒロさんために、明日も仕事を頑張ろうと思った。

●おゎり●

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