純情
□えすえむ
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家に持ち帰ってきていた書類の山が片付いて、ぼーとソファーに座っていた。ついているだけのテレビでは今流行りの、ニュースを解りやすく解説する番組が流れている。
一日中休みだった野分が作ってくれた夕食を食べてビールを飲んだ。野分に会ったのは久しぶりで妙にほっとした。
風呂から出てきた野分が、「お先です」と言って、俺の前に座る。一直線にならんだ俺と野分。足元には、広い野分の背中。
早く風呂にいかないと、という気持ちは薄れて見えなくなった。
テレビを見るより野分に目がいってしまう。野分はでかいくせに今は、背中を丸めている。
その背中に、ぺたぺたと足をのせた。足の裏から風呂あがりのほこほこになった温度が伝わる。野分は嫌がりもせず、そのまま黙っている。
足の指を動かしてみても嫌がらない。一方的すぎて、俺が悪いことをしているみたいだ。
でも少し、気持ちいいからやめたくない。
「野分、ちょっとくらい嫌がれよ。」
そう言って、足を揺らす。
「ヒロさんが始めたんじゃないですかー。」
野分の笑った声も揺れている。
「ヒロさん。」
はっとするほど、優しい声だった。
「やめなくてもいいですよ。」
嫌がるどころか甘やかされる。勘弁してくれ。風呂に入る前から体温があがる。
「な、なに言ってんだよ野分!お前は変態か!」
俺が足を下ろすと、すぐに野分が振り返った。
「ヒロさんが始めたんですよ?」
同じようなことを言って笑った。こいつやっぱり生意気になってきてやがる。
「ほら、ヒロさん早くお風呂行かないと。」
おもしろがる野分に立ち上がって蹴りをいっぱつ。早く出てきて今度こそ、野分を負かす。
俺はわざとらしく音を立てて風呂へ急いだ。
●おわり●