擬アン

□苦く
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「だー疲れたぁー」

ガラガラと横開きのドアを五月蝿く開けて、ティーシャツの胸元をはたはたさせながら辛が入ってきた。

「入ってくる時は静かにしてください。もしも生徒が寝てたらどうするんですか。」

机で生徒配布用のプリントを作っていた白髪に白衣姿の食が、わざとらしいため息を吐き出す。

「まだみんな朝のホームルームやってるから大丈夫だろ。それよりお茶くれ。」

「はいはい。」

辛は、食の前の丸椅子にがたりと腰掛けて、机につっぷしてしまった。

新人教師の辛は、バスケ部の顧問をしている。そして、いつも熱が入りすぎてこんな風になってしまうのだが、職員室でこんな姿はみせられない。そういうわけで辛は、職員会議が終わると、きまって保健室へやってくるのだった。

「また生徒と一緒になってバスケですか?」

透明なガラスコップに烏龍茶の茶色がゆれる。目の前に出されたそれを勢いよく飲み干すと、辛はやっと起き上がった。

「しゃーねーだろ、人数たんねぇんだから。」

元々朝練は任意だった。でも参加人数は、辛が顧問になってから少しずつ増えている。

「そーですかって・・・辛! ここに来るならシャワー浴びてからにして下さいっていつも言ってるじゃないですか、臭い!」

「臭いって、お前なぁ。」

水で濡らしたタオルを辛に投げ渡す。

「失礼します。」

控えめにドアが開けられて、女子生徒が入ってきた。

「また、辛先生ここにいるんですか。」

「まーな。」

辛は、保健室常連の生徒とはもう顔なじみになってしまっている。体をふき終わったタオルを食に投げ渡す。

「んじゃ、俺もそろそろ行くか。」

辛はぐっと背伸びをして、「失礼しました」と出て行った。

「食先生、辛先生って毎朝きてるの?」

辛が座っていた椅子に彼女が座った。

「来たり来なかったりですよ。」

ふっと優しげに細められた目に、彼女は悔しくなった。

「辛先生こなきゃいいのに。」

ぽそりと呟いて、頬を膨らませた子供に、食は体温計を渡す。


「熱なかったら、体育うけた方がいいですよ。」




→つづく
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