擬アン

□痛く
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学校にパソコンを忘れたせいで、休日だとういうのにわざわざ学校まで来ている。

夏休みがおわったばかりの九月は、まだ暑い日が続く。時々せみの声さえ聞こえてくるくらいだ。

今日は休日の、それも長期休みあけのテスト期間。部活に来る生徒もおらずいつもの喧騒が嘘のように静かだった。

だから私も、いつものスーツに白衣ではなく、いくぶんラフな格好できている。保健室に用があるだけなので、他の先生にあうこともないだろう。

保健室の窓からは、体育館がよく見えた。不自然にひとつだけ扉が開け放たれている。その扉の隙間を時々人影が動いている。

もしかすると。

胸がわくわくするような、頬がゆるんでしまうような感情が溢れた。

地面を揺らす足音と楽しそうな叫び声が波のように近付いては遠ざかる。

「君たち、なにやってるんですか。」

私の声が響くと、練習に夢中でちっとも私に気付かなかった彼らがやっと足を止め、振り返った。辛と、いつものバスケ部二人。三人とも汗だくで、荒い息をしている。ずいぶん前から練習をしていたのだろう。

「先生こそなにやってんの?」

辛は私を見つけても、すこし表情を驚かせただけで、他の二人のようには声をかけてはくれなかった。

3人は顔の汗を手の甲で拭うとぞろぞろと体育館から這い出てきた。私もすこし近づこうと、体育館の中に入ろうとしたがすぐにやめて扉にもたれた。中は蒸し風呂のように、ぬるい空気に満ちていてとてもじゃないが入ろうとは思えなかった。

「私は忘れ物をとりにきたんです。それより、君たちこんなことしていていいんですか?」

言っておいてなんだが、この3人の成績は職員室にいつもいない私にまで悪評が聞こえてくるほどにまずい。

3人は私の横を通って外の風を体いっぱいにあびている。こんなにのんびりしていていいはずがないのだ。

「だって、辛が突然バスケしたいって言うから」

言いだしっぺは辛ですか。

「俺のせえにすんなっ、お前らも言ってたじゃねぇか!」

そこから何故か首の絞め合いに。

今までずっと図書館で勉強をしていたらしい。何時からここでバスケをしていたのかはわからないが、もう夕方だ。

「そろそろ勉強したほうがいいんじゃないですか?」

今日は土曜日。テストが始まる予定は明後日だ。明日もろくに勉強をしないのは目に見えている。そう言うと、3人はきまずそうに視線を泳がせた。まったく3年生だと言うのに。



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